第37話 無人のギルド

 文句を言いながらも、順調に山道を進んでいき、ついに目的地である小ギルド『ニッコウ』に到着した。

 途中何度かモンスターに出会ったが、機嫌が悪いミリアは出会い頭にそれらを蒸発させていき、モンスターからドロップした魔法石を後ろの3人に回収させるという、モンスターの命をゴミのように扱う非人道的な行いをしていた。モンスターは何もしてないのに可哀想。

 しかし、ミリア曰く大体のモンスターは人を襲ったり、酷いやつだと捕食してくるものもいるたりするというのでこのような割り切りも必要だそう。

 森に出て来たモンスターは黄色と黒色のカラーをした酸を吐く芋虫やら、鉄のツノが生えたカブトムシっぽい虫やらだったので、ちょっと大きな虫とかの感覚かと錯覚していたがどうやら結構危ないみたいだ。

 よく考えたら俺はこの間バフォメットに殺されかけてる。モンスター危ない。

 そんなことより、今は『ニッコウ』の話だ。


 目的地のこのギルドは文明レベルで言えば、先ほどの『ウツノミヤ』と天と地ほどの差があるように見えた。

 地面にレンガが敷き詰められているというわけではなく、そもそも舗装されていない黒土が広がっている。

 家なんか日本の古き良きお屋敷みたいなタイプのものばかりで、屋根は瓦で作られていた。


「到着かしら?見た所人はいないみたいだけど……アイリちゃん」

「お任せあれですわ! 【感覚操作センスコントローラー】聴覚500%……!」


 アイリは加護を使うとフラッと俺の方に倒れ込んでくるのでそれを抱きかかえる。

 眼球はどちらを向いているかわからず、倒れたことにも気付いていない様子だ。

 

 フジミヤアイリ。

 俺が元々働いていた保育園の生徒で、訳あってこの旅に同行している。彼女の加護は【感覚操作】自分と自分に触れたものの感覚を操作する加護だ。

 1つの感覚を強化することができるため、非常に強力に思えるが完璧ではなく、今のアイリの状況のように何かを強化したら他のを弱めないといけないという制約がある。そもそも感覚の強化、ではなく感覚の操作なのだから当たり前か。

 アイリの目の照準がはっきりしてくると、彼女の口が開く。


「人はいますわ。それも1人や2人じゃありませんの。多すぎて数えきれませんわ…………ってタケル先生!どうしてわたくしを抱いて!?」

「あっ、ごめん。アイリが倒れて来たから思わず」

「べ、別に謝る必要わありませんわ!」


 俺の腕をすぐに引き離すとアイリは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。

 アイリも男の人に触られたら気になる年頃なのだろうか。

 一応年齢的には小学四年生ぐらいだし、そういうことがあってもおかしくない。

 ミリアに抱きしめられていた時も嫌な顔してたし、人に触られること自体が苦手である可能性もあるか。まあ、どちらにせよ悪いことをしてしまったなと思った。

 とにかく、アイリの加護のおかげで、このギルドはもぬけの殻でないということは分かった。

 早速、第一まちびとを探しに町を散策する。


「それにしても古い家が多いなここは」

「そうだね、タケルくん。タケルくんは古い家の方が好み?」

「それはどうだろうな……元の世界では完全に日本家屋だったからさ、洋風な家に憧れがあるな」

「なるほど。将来は『ウツノミヤ』であった様な洋風な家が買いたいと。それでしたら予算のほどはいかほどに。結婚後のお子さんは何人ほどを考えていますか?それによって家の広さが……」

「お前は不動産屋か何かか、クレハ?あと勝手に俺を結婚させるな」

「ううう……タケルくんのいけず……」


 いけずも何も、全部クレハの妄想だ。全く、クレハはどうして俺にこんなにアタックしてくるかね。嫌ではないけど、俺よりもっといい人がいるだろうに。


 それは置いておいて、やっぱり俺はこのギルドに違和感を覚えていた。人はいるはずなのに人はいない。なんだこの状況は。


「ミリア、この状況をどう見る?」

「どうって、そんなの分かりきってるわ。今このギルドは滅亡の危機よ。正確には合併するだけだから人が死んじゃうとかじゃないんだけどギルドとしては滅びてしまう。だからよそ者に相当注意しているのでしょうね」

「やっぱりそうだよな。気配の消し方が異常に上手いのか、全くどこにいるのか分からない」


 しかし、どこかにはいる。

 分からないけど、姿を消す加護ギフトを使っている可能性もあると思う。

 だとしたら、いるはずの彼らに会うためにはどうしたらいいか?

 俺は1つの思うところがあって、話し始めた。


「なあミリア。せっかくここまで来た訳だけどさ、何もないみたいだろ?」

「そうね」

「来る道々で、俺また汗かいちゃってさ、温泉入りたいんだよね」

「温泉! 私も温泉入りたいなぁ〜混浴で」

「混浴は勘弁してくれ。確かここは『ニッコウ』で元の世界の日光と同じ場所だとしたらさ、近くに温泉地があったはずなんだよね。こんなところで観光するぐらいだったら、そっちの温泉行こうぜ」

「観光……?タケル」


 下手口を叩こうとするミリアの手を握りそれをやめさせる。

 それで何かを感じ取ったのか、ミリアは腰のポーチから地図を取り出すとわざとらしくそれを眺める。


「ここかしら。キヌガワ? 沿いのここ。一応『ウツノミヤ』の領土みたいだわ」

「それそれ。結構いい場所だったぞ。元の世界ではな」

「ふーん。なら決まりね、みんなまた少し歩くわよ。今夜は温泉宿でパーティーをするわ!」

「んんっ! その温泉地の湯でしたらこの土地にも流れておりますぞ。是非、この町で入ってくださいな」


 予想的中だ、と心の中でガッツポーズをとる。不意に現れた気配の方向に俺たちは視線を移した。

 そこには長く髭を生やした背の低いお爺さんが立っていた。

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