第33話 バフォメット戦⑥

 バフォメットと殴り合いを続けて結構な時間が経った。殴られ蹴られ、殴り返して。殴られて殴られて殴られて……とにかく巨大な肉体から放たれる拳を全身で受けていたが、それでも俺は意識を飛ばすことなく立っていた。


 なぜなら、バフォメットの攻撃は俺の加護ギフト世界の加護ギフト】に阻まれ効果を成さない。痛みは感じるが、それも酷いものではなく、怪我をするような気配は一切なかった。

 一方、俺の攻撃はバフォメットの堅い外皮によって無力化される。攻撃力が圧倒的に足りていない。


 こうして、俺たちは互いに傷を負うことなく不毛な戦闘が続いた。


 この時間の中で再び思うことといえば、人間は素手での戦いに向いていないということだ。

 鋭い爪もないし、噛み付いたところで牙もない。


 だからこそ武器を使い、素手では絶対に倒すことのできない様な化け物に挑む。

 俺にも世界の加護ギフトという武器はあるが、それは人間に対して有効なもので、モンスターに対しては効果が薄いからこんなことになっているわけだけど。


 永遠に続くかと思われるその戦いを終わらせる少女の掛け声が俺の耳に入ってくる。


「い、行きますわ! タケル先生!」


 掛け声に合わせ、俺は地面の砂を一握りし、バフォメットの顔に投げつける。

 小賢しい子供騙しの様な一手だが、今まで直接的な攻撃の応酬だったためか効果は上々で、バフォメットは一瞬身を引いた。


 その隙に、俺とアイリのポジションが入れ替わり、鱗粉のような光る粒子を纏う剣を振るう。


不可避の輝剣クラウ・ソラス…………ですわ!」


 アイリが宝具を縦に振るうと、同時に例のごとく刀身は消え去り粒子へと変化する。


 そしてワンテンポ遅れてその粒子は大きな破裂音と共に起爆した。


 そして響く獣の叫び声。

 アイリの繰り出した宝具はの威力はミリアに及ばないほどだったが、それでも弱ったバフォメットを倒すのに十分な威力があった。正確には違う。


 奴の本体緑の魔法石を剥き出しにするのに十分な威力があった。


 粉塵が収まる頃、黒い巨大な影がのっそりと立ち上がる。


「タケル!」

「分かってる!」


 俺は今回色々やらかしすぎだけどな、一度仕留め損ねた相手を二度も逃がすつもりはない!

 立ち上がるバフォメットに俺は低姿勢で接近する。

 見るとバフォメットは満身創痍で、脇腹から胸にかけてぽっかりと身体が欠損してはいるが、すでに再生が始まっている。

 スライムの再生能力はあまりに強力だ。

 しかし、俺にはそれを無効化するすべを持っている!


 体から飛び出た緑色の魔法石に、俺は指輪の宝具を押し当てる。

 俺の持つ宝具は確かにモンスターには効果が無い。

 しかし、モンスターが体に宿す魔法石に対しては話が別だ。

 本来ならばモンスターの肉壁に覆われ魔法石は守られているが、アイリがそれを崩してくれた。

 作ってくれたこのチャンスを絶対にものにすんだ。

 宝具を押し当てられた異形は、始め何をされているのか気がついていないようだったが、すぐに体の異変に気付き俺の顔を平手で叩く。


「バフォメット、もうお前に俺は倒せない」

「グアガッ!!! ガガガガアアアアアアアア!!!!」

「勝手に住処を荒らしてごめんな。だから最後は一思いに……さよならだ」


 指輪を押し当てたまま、俺は右腕に力をため、力の限りそれを魔法石に叩き込む。


「いくぞバフォメット! 歯食いしばれッ!!!!」


 大きく澄んだ魔法石は俺の拳を受け、ヒビが入ったあと、崩壊した。バフォメットの身体は光の粒子へと変貌し、戦いの幕は降ろされたのだった。

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