第32話 バフォメット戦⑤
「ちょっと待ってアイリ。宝具はミリアのものだし、そもそも使えるのか?」
「そ、そうですわね……でも私も何か役に立ちたいんですわ!」
俺の服の袖を掴みアイリが迫る。手が震えていた。
守られてばかりで自分で何かをしたいと言う気持ちはよく分かる。
しかしそれが叶わないことだって……
「はい、アイリちゃん。使い方は分かる? ミリアママが教えてあげるわ!」
「お、お願いしますわ!」
「んんんん??」
ミリアは大切な宝具、
俺の頭はクエスチョンマークでいっぱいになる。
え? 宝具ってそんな簡単に、誰でも使えちゃうものなの?元の世界で言うAEDとかそんなレベルの代物なの?
俺がそんな疑問を抱いている間にミリアは宝具の使い方の説明を終える。
すっかり自信がわいたアイリはしっかりと目前のバフォメットを見据えた。
「使い方は分かりましたわ! 剣を振った時に魔力を注げばいいんですわね!」
「……結構シンプルなんだな、宝具」
「当たり前じゃない。クレハが言ってたでしょ? 宝具は国やギルドの力関係に大きく関わってくるものだって」
「それがどうしたんだよ」
「それは使用者を問わない強さが宝具にはあるからよ。そりゃあ私みたいに強くて可愛い娘がいたらギルドの戦力は跳ね上がるかもしれないけど、私も人間である以上いつかは死ぬわ。そうなったら戦力はガタ落ちよ?でも宝具にはそれがない。人は死んでも宝具は死なないわ」
言われてみればそうかもしれないと俺は妙に納得してしまう。
確かに強い人よりも、装備しただけで強い装備の方が脅威であるのは間違いない。
装備しただけで強いと言っても、流石に装備する人によってその性能に差は出るだろうけどね。
アイリが宝具を使うことが出来ることが確認取れたところで、俺は再度バフォメットに向かい合う。
「それで、俺の役目はまた囮ってことでいいのか?」
「分かってるじゃないタケル。でも、出来るならアレを倒してしまっても構わないわ」
「こら、死亡フラグ立てるな」
「立てても問題ないから言ってるのよ。だってあいつはもう……」
青色のバフォメットは咆哮し、地面を揺らしながらこちらに接近して来る。
「あんたを傷つけることなんて出来ないわ」
振り下ろされた巨大な斧は殺意を持ってこちらに向かい、俺はそれを左手で受け止める。
ザザザッ!!!!
巻き起こる砂煙。
バフォメットは自分の勝利を確信したかのように吼えた。
砂煙が晴れたとき、バフォメットは視界に映る自分の半分ほどしかない生き物を見て驚愕する。
ミリアの言う通り俺は全くの無傷だった。
バフォメットは思わず後ずさりする。
ダンジョンで初めてミノタウロスと戦った時と同じだ。
歯が立たない相手に対しては本能的に逃げ腰になるものだ。
こちらが完全に有利といえど、俺の拳はバフォメットに対してあまり効果がある様子ではない。
停戦状態になれば、こちらの実質勝利だ。
俺は自分の役割を再び胸に刻むと、先ほどより恐怖を感じない異形に立ち向かうのだった。
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