第20話 幼女の謎
目が覚めて最初に見たのはクレハの胸だった。
顔が見えたわけじゃないがこの大きさはクレハだ。胸から顔をのぞかせたクレハは安心した表情で俺を見ていた。
「タケルくん無事だったんだね! もう、心配したんだから!!」
「おい……息が…………」
感極まったクレハは俺の顔を抱きしめ当たり前のように窒息させようとしてくる。
幸せだ、幸せだけど…………死ぬっ!幸せで死んじゃう!
俺は命を守るために埋もれてしまった顔を必死に横に振るが振るたびにクレハが艶かしい声を上げる。
「んっ…………やっ、めっ…………ダメ……だよ、タケル……くんっ! あっ、あんっ…………っ!!」
「プハッ!! やめろ! エロい声だすな!」
「あれ? 今の声エッチだったかな? 私ってエロい? タケルくん何を想像したのかな?」
ニヤニヤとこちらを見つめる。最高にエッチな奴だと言いたいところだけどそれを言ったらクレハの思うツボだ。
俺は必死に頬のほてりを抑えると自力で体を起こす。
体を起こし今の状況を把握する。
クレハは俺に膝枕をしていて、ミリアはなんか緑色の光を俺に照射していた。回復魔法か何かだろう。
アイリは既に泣き止んでいて、心配そうにこちらを見ていた。
場所としては、俺は今広場の噴水の前にいる。正確には噴水だったものの前だが。
あの時ゴウケンに最後の一撃をもらった俺は地面を転がりながら広場まで吹き飛ばされた。そして噴水に当たって俺の体は止まったはいいものの、俺の代わりに噴水が犠牲になったんだ。
広場から北側に長く伸びる道を見るとそっちの被害が非常に大きい。
舗装されてたはずなレンガの道はところどこ剥がれていたり、遠くの方ではそもそもレンガが全くない場所があったりと酷い有様だ。
レンガが完全に剥がれ消えてしまった場所をよく見るとその周囲の民家もかなりの数が大破しているように見える。
俺はその周辺で戦っていない。そこで戦っていたのはミリアだ。俺は緑の光を出すのをやめたミリアをじっと見つめると、わかりやすく彼女は焦った。
「私のせいじゃないわ! 敵がね! 敵が強かったから、仕方なくよ!」
「それで宝具ぶっ放して街を壊したと」
お前はウルトラマンか何かなのか?巨大怪獣の攻撃受けて吹き飛ばされ、1番街を壊してるウルトラマン的ポジションなのか!?
まあ、炎が出る鎖を使わなかっただけ良かったのかもしれない。炎なんて出したら大火事で街全体消えていた。
クレハは宝具が国やギルドの力関係を決めてしまうほどのものだと言っていたが、全くその通りだ。
街を壊したことを深く反省し、悔いるミリアは置いておいて、今は聞かないといけないことがあるのだ。
こちらを不安げな目で見るクリーム色の髪を揺らす幼女に問う。
「アイリ、さっきの大男……ゴウケンはアイリのお父さんなのか?」
「…………そうですわ。わたくしはそうだと思ってますの……」
か細いアイリの声は俺の問いに肯定で答える。あくまで確認の問いだ。ここで否定されては困る。
父の話を持ち出した途端に悲しい顔をするアイリを宥めるように、俺は優しく続けた。
「ゴウケンがどうしてアイリを捨てたのかは分からない。だけど何か理由があったという事が分かった」
「知ってますわ……それは私が弱いから……フジミヤの家に弱い人間はいりませんの」
「それが理由じゃないと思う……まだ確証は無いけど、ゴウケンのあの目はそんな理由でアイリを捨てたとは語っていなかった」
そうして俺はポケットから暗く濁ったビー玉を取り出す。そしてそれをミリアに見せた。
ミリアはそれを見た途端に目を見開き驚いていた。
「これはゴウケンから渡されたものだ。ミリアは物知りだし、これが何かわかるか?」
「分かるも何も……それは超高級品よ!? 【
ミリアの焦りようからもこの玉が相当貴重なものであるのだと分かる。
ゴウケンは魔法効果を打ち消す魔法石を渡して俺に何をさせたかったんだろう?これを使って俺を倒せ? 違う。これはおそらくアイリに使用するために渡されたものだ。
もしかしてと思い、ミリアの肩を押さえる。
「ミリア、今すぐアイリのステータスを確認してくれ!」
「え、ええ! 突然詰め寄られたからドキッとするじゃ無い……勘弁してよね!」
頬を火照らせ口では文句を言いながらもミリアはアイリのステータスを確認する。クレハも同時に確認したのだが、二人ともあからさまに動揺している。
ミリアに頼んでアイリのステータスを地面に書いてもらった。
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フジミヤアイリ
筋力:E
魔力:A
体力:D
技量:C
経験:D
加護:【
【
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やはりか、と俺は思った。確かミリアと最初に会ったとき、俺の加護を見て「これは【虚偽】の魔法をかけたものに現れるもの」だと言っていた。結局、俺の加護は【世界の加護】で合っていたのだが、アイリのこれは多分違う。
今、アイリには何か魔法がかかっていると考えていいだろう。
俺はミリアに黒く濁ったビー玉を渡す。
「これを使ってアイリにかかった魔法を解いてくれ」
「言われなくてもするわよ! ちょっと待ちなさい」
そう言ってミリアはそのビー玉みたいな魔法石を手に握ると力を込める。黒い光が石から溢れ出し、それがアイリを包み込んだ。
解除が成功したのか、ミリアは光の照射を止める。
「見るわよ」
ミリアは小さくそう告げて、幼女に隠された真実を覗き込んだ。
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