第19話 俺の力は完璧じゃなかった
「おらぁああああああ!!!」
振り下ろされた斬撃を左手で受け止める。
腕がひしゃげそうな感覚を感じながらも俺の腕は壊れてはいない。俺の【
「おいボウズ! 魔法が使えないんじゃなかったのか!? どんなマジックしてんだ、えぇ!!?」
「仕組みなんて分からない。だけどお前を倒せればそれでいい!」
打ち放たれる何十もの斬撃を全て腕で弾き、防ぎ、ねじ伏せる。
そして少し距離を開けると、武器での攻撃から転じて魔法での攻撃にシフトしてきた。
ゴウケンが腕を目の前にかざすとそこから魔法陣が現れる。俺はこの世界に来て初めて魔法らしい魔法を目の当たりにしていた。
魔法陣から現れるのは水の塊。たかが水と思ってはいけない。いくつもの水玉が鉄の塊なのではと錯覚するほどの強度でこちらに向かってくるのだ。
俺はその水の塊を両手で必死に防ぎ、防ぎきれない玉はかわし、かわした玉が背後で爆発を起こし広場が砂煙を起こしながら破壊されていった。それでも俺の体は傷つかない。
「どうしたゴウケン! そんな武器や魔法じゃ俺の体は傷つかないぞ! 男らしく素手で来い」
「俺に素手での勝負を挑むだと? …………いいだろう。後悔するなよボウズ!!!!」
巨人は斧を手から離し、背中に担ぎ直す。
そして手に黄金の籠手をはめ込み、大きな体を揺らして突進して来た。そこから繰り出される拳による一撃を受け止めようと試みるが、それは叶わない。
今までで一番の破壊力を持ったそれは俺の体を弾き飛ばし、俺は道路沿いの民家に突っ込んだ。吹き飛ばされた俺は今までで味わったことのない程強い痛みを感じた。
手を見るとそこには血がついていた。
「(いてて……あいつの力は俺の加護を上回っている。当たる直前にあいつが手を緩めていなかったら俺の体は今頃)」
俺は立ち上がり、全速力、いや、限界を超えた速度で巨人に肉薄する。俺の体は多少無理して使っても問題なく動いてくれた。
ゴウケンに比べ小さな体を利用して、俺は手の位置的に防ぎ辛い角度から右手拳を入れる。
俺の拳を全く防ぐ様子もなく、巨人は俺の顔面へと一撃を見舞った。再び俺の体は宙を舞い、道路をグルグルと回りながら転がされる。
立ち上がり巨人を見据え、鼻血を垂れ流しなら俺は笑う。
俺に拳を打たれたゴウケンは明らかに顔色が悪く、こちらを睨んだ。
俺がダンジョンで手に入れた宝具。クレハのおじいちゃんが作ったとされるこの宝具は本来の使い方とは別の使い方がある。それがこれだ。
純度99%の魔法石できたこいつは、触れただけで相手の魔力を奪い取る。
その威力は疲弊したミリアを一瞬で気絶させるほどだ。ゴウケンがどの程度の魔力を持っているのかは知らないが、ミリアは魔力のパラメータがSSS、おそらく最高のランク付けをされている人間ですらかなりのダメージを受けていた。
当たり前のように、目の前の巨人にも効果があり、手応えは間違いなくあった。
俺は再び
先ほどのようにボディーに当たることはないが、俺の拳は奴の拳で止められて、なぜだか拳には
おそらく原因はあの黄金の籠手。原理は分からないが、あの籠手は俺の一撃を無効化する。
そこから先はただの殴り合いに発展したのだが、その最中ゴウケンは俺の顔面を殴ったと思いきやそれと同時に俺の口の中に何かが放り込む。
悪い薬か何かか!? と思ったが恐らく違う。口から出したそれは黒く濁ったビー玉のようで、怪しく光っていた。
これが、これこそがゴウケンの真意を語る何かなのだろう。
取り出したビー玉をポケットに入れると俺はバックステップで大きく後ろに下がる。
下がったことで視野が広がり、今の状況が把握できた。街は道路がもうめちゃくちゃで民家もいくつか壊れている。そしてミリアはゴウケンの護衛の兵を全く寄せ付けず、半分以上の兵士はすでに倒されていた。
その手に握るは
どんな性能を持っているのかは気になるが、こっちもそれどころじゃなかったから仕方ない。
状況を見るにこのままではミリアもそろそろ兵士を倒しきってしまうだろうし、もう潮時だろう。
俺はゴウケンの瞳を真っ直ぐ見据えた後、何度かミリアの方に目配せする。俺のその行動に巨人は気づいたのか軽くミリアの方を確認した。
そしてゴウケンは背中の大斧を肩から下ろし、手につけた籠手も外し、クラウチングスタートのような体勢をとった。
俺は魔力を感じることはできない。
しかし、肩の荷を下ろし、体勢を整えたゴウケンの体からはピリピリとした、ある種殺気のようなものをひしひしと感じた。魔力が高まっている、のだと思う。
「俺に一撃入れた、弱くとも勇敢な戦士に敬意を払い俺の全力を見せてやる」
そして一瞬、瞬きをした一瞬程のスキだ。その一瞬であの巨大な体躯は俺の目の前まで接近し、水を纏う拳をかざす。
そして耳元で囁いた。
「アイリを、頼む」
ほとばしる力の塊は俺の腕を軽くへしゃげ、俺の体は500メートルはあったはずの広場まで吹き飛ばされる。
そこから先、俺の意識は途絶えた。
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