第16話 俺より強い幼女
「タケルくん……この幼女、誰?」
「なにこのデジャブ……?」
俺はオカザキ家の前で先日と同じ光景を繰り返していた。
ポカポカ陽気の中、ドロドロした昼ドラ展開に発展しそうな勢いだ。
クレハさんポケットに手を入れないでください。そのポケットに何が入ってるのかは分かってるんだからな!?
「前にも言っただろ? 俺、この世界に来てからクレハんちと保育園で働かせてもらってたって。アイリはその保育園の子供」
「それで? この子はタケルくんと誰の子供なの? 浮気?」
「はぁ!? こっち来て1週間で10歳児の娘がデキてたまるか! それこそ俺が時をかける少年になっちまうよ!」
クレハはこの世界と違う時間の流れにいきているのかもしれない。俺とクレハの会話にあたふたするアイリは体を間に入れ、俺たちを止める。
「わ、わたくしはアイリと申しますわ! タケル先生には保育園で会ったのが最初ですの! それに私のお母様とお父様はちゃんといますわ!」
「タケル先生…………? タケルくん、幼女に先生って呼ばせるなんてどんな趣味してるのかな? 私もタケルくんのこと先生って呼んだほうがいい?」
そう言うとクレハは一気に距離を詰めて来て、俺の耳元で「先生……」と甘く呟く。
こそばゆい感覚が身体中に周り、クレハの甘い香りが鼻腔を撫でる。頭がクラクラしそうだ。
「先生呼びは勘弁してくれ。話を戻すぞ。俺は色々あってアイリを旅に同行させたい。それでミリアに許可をもらいたいんだけど、今ミリアはいるのか?」
「聞きたいことは山のようにあるけど、置いておくことにする。ミリアなら今、工房の中にいるよ。お父さんに宝具を見せてる」
「了解。ありがとなクレハ」
俺はアイリの手を握り、工房のドアを開ける。
まだ緊張が解けていないのかアイリの握り返す手は少し強めに俺の手を圧迫した。
*
工房内は窓が少ない。つまりは入ってくる日光の量が少なく、薄暗い。炭やら何やらで埃っぽさを感じる。そのくらい空間にひときわ光を放つ物体があった。
あのダンジョン内での大爆破を引き起こした宝具。俺のポケットに入っている
クレハのお父さんは食い入るようにそれを見ていた。その眼差しはクレハと同じ様で、興味や関心、そしてそれを解析してやろうという気概を感じた。やはり親子だなと思う。
ミリアはこちらに気付くと小さく手を振る。俺はこっちを見向きもしないクレハ父を置いて置いてミリアを外に連れ出した。
オカザキ家の前に俺、クレハ、ミリア、そしてアイリの4人が集まる。1人はまだ未確定だがこれから一緒に旅をする仲間たちだ。
アイリに関するこれまでの経緯をミリアに説明する。ミリアは少し考えるそぶりを見せたが、すぐに頷き許可してくれた。
「旅の同行者は多ければ多いほうが良いわ! 人数が多ければそれだけモンスターに狙われる確率は下がるものよ。それに……」
「それに?」
「その……アイリちゃんだったわね。アイリちゃん可愛い……じゃなくって、アイリちゃんが危険にさらられても、あんたなら守りきれるでしょ? あんたの
ミリアはそう言って屈託無い笑顔を向ける。
俺の加護【
俺は隣に立つアイリの頭をポンと叩く。
「ということだ。アイリのことは俺が守るからさ、安心して旅に出れるな」
「守っていただけるのは嬉しいですが、心配はご無用ですわ! わたくし、こう見えてもそれなりに戦えるのですわよ!」
アイリは胸を張り、自慢げにそう言う。
戦えるってどう言うことだ?どう見ても幼女だし、戦えるわけない……いや、よく考えたらこの世界には加護という特殊能力を持った人間しかいないだった。
子供だろうが、強力な加護を持っていれば一流の戦士になるのかもな。確かに、戦闘のための加護を持っていない人と炎とかだせちゃう人なら年齢とか関係なく炎出せたほうが強い。
元の世界でいうなら、拳銃持った子供と素手の大人が良い例えだろう。拳銃……そういえばこの世界にはその様なものはないのか?鍛冶屋があるぐらいだし、ないのかもしれないな。
……それにあんな危険なものないほうが良いに決まってる。
それは置いておいて、今はアイリの話だ。彼女が戦えると言うので本当か?と俺は首をかしげる。
「本当にか? 大人しくお兄さんたちに守られていいんだよ?」
「お、お、お姉さんもいるわ! アイリちゃん可愛いわね。お姉さんが守ってあげるわよ!」
「ほ、本当ですわ! ではタケル先生、お手合わせ宜しくお願いします」
「良いけど……大丈夫なの? 怪我するかもしれないよ?」
「でしたら、タケル先生はすんでのところで攻撃をやめてくれれば大丈夫ですわ! 先生ならきっと出来ます!」
目をキラキラさせ俺に懇願してきた。
うう……無垢な瞳が眩しい。そんなに期待しないでくれと言いたいところだが、実際のところ俺は寸止めの方が得意だ。空手ってのは大体相手を打ち負かす競技じゃないしな。寧ろいつも通りな感じがして助かる。
俺は頷き、アイリから距離を取る。
広場に続く広いレンガ道の真ん中で俺たちの手合わせは急遽始まった。ミリアやクレハは応援席と言うか鍛冶屋の前の段差に腰掛け、手を振っていた。
「手合わせのルールは相手に一撃食らわせたら勝利ということにしよう。それで良い?」
「分かりましたわ!」
「お先にどうぞ、アイリ」
「良いのですか? わたくしが勝ってしまいますわよ?」
アイリはそう言うと、キョトンとした表情を浮かべる。全く俺も幼女に舐められるだなんてな。
少し真面目に手合わせをしようと思い、アイリの最初の一手を待った。
アイリは体の通り、小さな歩幅で俺に近づいてくる。体を右に左に揺らしながら歩く様はまるで俺に暗示をかけているかの様。
幻覚を見せたりする感じの加護なのか?
アイリの加護の種類に当たりをつけようとしていると、俺の呼吸の合間を縫って急に速度を上げ低姿勢でアイリが迫る。
そして構えた右手をアイリが掴んだ瞬間、俺の視界がボヤける。
「(何が起きている!?)」
動揺しているうちにアイリの手は俺の手から離れ、離れたと思ったら急に頭が痛み出した。
そして視界が元に戻る。
俺は空を見ていた。
右手はアイリが握ったままだ。
ふと鍛冶屋の方を見るとミリアとクレハがその場から立ち、目を見開いている。ミリアはミニスカートを履いていたので白いパンツが見えていた。
分からない。分からないことだらけだが……俺はどうやらアイリに負けたらしい。
見上げると笑顔で手を差し伸べる俺よりも強い妖精の様な幼女がそこにはいた。
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