第14話 ミリア様は急病

 目の前に現れた四つの武器達。

 これらの装備がどれほどのものなのか、俺には分からないが、クレハの顔を見れば一瞬で理解できる。

 ミリアが召喚したそれらは間違いなく、最強の名を冠するものだ。


「お爺ちゃんの作った宝具……?」


 ポカンと口を開いたクレハは無意識のうちにそう呟く。俺は内心ミリアの持っていた武器が宝具と呼ばれるものなのではないかと怪しんではいたが、本人からそのことを聞くとまた違う。


 武器を纏うミリアは、邪魔になると一言告げて黄金の剣以外全て例の謎空間にしまい込む。そしてミリアは剣をクレハに渡した。

 クレハはそれを受け取ると、恐ろしいほどの集中力で剣を調べ始めた。俺が話しかけても全く反応しない。鍛治師の性というやつなのだろうか。目の前に宝具が、それも死んだお爺ちゃんが作った物ということもあるだろう。

 クレハは一通り調べ終わるとミリアを見つめる。


「剣の周りがぼやけてる。これって一体どういうことなのかな?」

「そんなのあいつに聞かないと分からないわ。ただ、魔力をギュッと押し固めて作ったと言ってたわね」

「魔力!? これは魔力を加工したものだっていうの!?」

「私には分からないわ。この武器の真骨頂はまた今度見せてあげる! 見た目よりもっと凄いんだからね!」


 ミリアは自分の自慢をするように宝具を誇った。


 見た目より凄いというのは、ダンジョンの中で見せた大爆発ことだろう。

 確かにあの攻撃は凄かった。例えるなら、手榴弾。いや、ミサイルやそれ以上の火力。魔力を詰め込んだとか言ってたけど、恐怖を詰め込んだの間違いなんじゃないのか?


「クレハのおじいちゃんは確か、ダンジョンにある宝具も作ったと言ってたわね。あれは魔法石を極限まで詰め込んだものなんでしょう? 普通はそんなこと出来ないわ」

「う、うん。私もそう思う」

「私は博識お嬢様だからいろんな宝具の情報を知っているけどね、極限まで魔法石の純度を上げたり、魔力そのものを加工したりした馬鹿げた宝具を知らない」


 ミリアはクレハに近づきその手を取った。まるでここにいない誰かに話しかけるかのようにミリアは優しい顔をして話す。


「貴方の祖父は間違いなく史上最高の鍛治師よ。クレハ、あんたはそれを誇りに思いなさい。こんなこと、あのジジイの前では恥ずかしくて言えないけどね」


 鼻の下を擦り、恥ずかしそうにミリアはそっぽを向く。全くプライドの高いお嬢様だ。しかし、そんな彼女だからこそ心からおじいさんを尊敬していると感じられた。

 クレハは自然と流れてくる涙を拭うことなく、最高の笑顔でこう言うのだ。


「よかった……私のお爺ちゃんは最低で最高のお爺ちゃんだったんだね」


 クレハはちょっと怖いこともあるけど、笑うと愛くるしく、少しときめいてしまう。こんな調子で絡まれたら俺もコロッといっちゃいそうなんだけど、そんなの本人には言えないな。

 一通り宝具のお披露目が終わり、夕食が続行した頃、ミリアは何かを思い出したかのように突然席を立つ。


「そう言えばさっき話題に出たけど、ダンジョンの宝具! あれ結局どうなったのよ!!」

「そうだった……タケルくんミノタウロス倒した時に結局回収しなかったの?」

「ん? してきたぞ。俺も完全に忘れてた」


 そもそも指輪なんて小さなものなんだから忘れてても仕方ない。実際、ミノタウロスから指輪奪ってその後ミリアを引っ張ってダンジョンから出るのに苦労して意識がそれたと言うのもある。

 俺はポケットに適当に入れてあった赤い石がはめ込まれた指輪を取り出し、ミリアに放り投げる。


「ほれ」

「ちょっとタケル! これはまがりなりにも宝具なんだからね! 大切に……」


 そこまで言ったところでミリアの意識が途絶えた。

 ドサっと椅子から転げ落ちると持っていたスプーンが宙を舞う。何事!? ミリアさん持病!? 持病なの!?と一瞬思ったが、またまた俺は大切なことを忘れていたらしい。

 クレハの言葉を思い出す。


『高濃度の魔法石に触れると気分が悪くなるの』


 気分が悪くなるどころか気を失うなんて聞いてないんだけど!?

 ドタバタとした俺たちの夕食は一旦終わりを迎えるのであった。

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