第8話 ミノタウロスに素手で

 薄暗く狭い空間で、俺の目の前には三体のミノタウロスが立ちはだかる。

 ミノタウロスはなにを考えているか分からない。ただ、間違いなく俺に対して敵意を持っていることは言葉を介さずともはっきりとわかった。


 追い詰められた俺に対して一匹のミノタウロスが斧をふるう。俺はそれをすんでのところでそれをかわすが、その風圧で着ていた服が切れる。


「グガガガガガァァアア!!!!!!」


 斧を振るった一体の咆哮を皮切りに、他のミノタウロスも襲いかかる。命を懸けた闘いが始まった。


 正直、ミノタウロスを自分の力で倒すことができるとは思えない。頭を使え! 人間様がこんな世界で生きていける理由はそこにあるはずなんだ。俺は次々と畳み掛ける攻撃の嵐を冷静にかわす。

 俺の攻撃が通じないなら、相手の力を利用するしかない。

 右からくる斧を体を捻りかわし、真ん中から来るものはバックステップを絡めてかわし、そして、左から迫る斧を真ん中に立つ巨体の足元を潜り抜け回避した。


 狙い通り、ミノタウロスの斧は仲間の足へと突き刺さり、悲痛な叫びがダンジョン内に響き渡る。


「ギイイイィィィイイ!!!!」


 いける。いけるぞ!

 ミノタウロスはその威力は高けれど、動きはそこまで速くない。きちんと見極めれば攻撃はかわせるし、さっきみたいに仲間同士で自爆させることも狙える。そして奴らが混乱しているこのチャンスを逃すわけにはいかない!

 連携が崩れたのを見計らい、俺は仲間の攻撃により怪我を負ったミノタウロスの足に力の限り蹴りを入れた。

 半分千切れかけていたミノタウロスの足が血飛沫を上げてダンジョンの壁に叩きつけられる。

 その瞬間、足を飛ばされたミノタウロスの身体は白い粒子へと変わり散り散りになる。


 なんのことかと思ったが、モンスターは死ぬとこのように粒子になるのだった。

 そして、死んだモンスターの核がドロップする。

 先ほどまでミノタウロスが居たそこには紫色の大きく尖ったクリスタルが横たわっていた。これがいわゆる魔法石というやつだろう。


 仲間の死にさらに怒りを高める残りのミノタウロスは、忘れて俺に襲いかかる。

 だが、そんなさっきよりも単調な攻撃を食らうほど、俺は弱くない。小さい頃から空手をしてきた影響か、反射神経はかなり優れていると思っている。現に、ミノタウロスの攻撃はきちんと見えているし、それをかわすほどの身のこなしは備わっていた。

 ミノタウロスは激昂しているが、二度も同じ手で倒れるとは思えない。俺は先程ドロップしたミノタウロスの魔法石を手に取った。


 絶えず繰り返される斬撃をかわし、いなし、向かって来るミノタウロスの力を利用して……魔法石をその胸に突き刺した。


 ビクンと身体中が一度跳ね、傷口から血が噴き出すのと同時にその体が霧散する。


「(これで後一匹ッ……!)」


 心の中でそう呟いた瞬間、死んだミノタウロスがあげる光の粒に紛れ、銀に輝く一線が迫る。


 完全に不意を突かれた一撃。


 ミノタウロスの巨体から繰り出される渾身の一撃をもろにくらい、俺の体は宙を舞った。

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