第7話 ダンジョン入ってすぐにボス

 洞窟の入り口のような土で出来た穴をくぐると、そこにはダンジョンが広がっていた。

 ダンジョンの中は、外の秋特有の心地よい清々しい気温とは別に薄っすらと寒ささえ感じるものだった。しかし、それは視覚によるところもある。

 周囲に広がるダンジョンの土壁にはちらほらとよくわからない虫が這っていたり、恐らく人間たちがダンジョンに潜るためにつけたであろう壁にはかけられた松明の周りには蛾が舞っていた。気味が悪い。

 足元は茶色く少し柔らかめの土であったが、ぬかるんでいたりすることなく、割と歩きやすいのでそこは救いだと言えるだろう。


「ここが、ダンジョン……!」


 期待以上に湧き上がる恐怖を抑えるように拳を握る力が強くなる。足はすでに震えていた。


 今こんなんでミノタウロスなんかに出会ってしまったらどうなるんだ。絶対足が動かなくなる。

 死んだふりでもしようかな……そんなことしたら本当に死んじゃうからやめておこう。


 俺はモンスターに見つからないように、足音に気をつけて先を急ぐ。

 ミリアがダンジョンのどこにいるのかは分からないが、目的地である宝具の在り処はダンジョンの一番奥だと言っていた。

 ミリアが途中で死んでいない限り、彼女は奥へ奥へと進んでいるはず。

 つまり……


「俺も進むしかないってことだな」


 土壁沿いにしばらく進んで行ったが、不思議なことに未だモンスターに遭遇していない。すでに進み始めて結構経つし、ダンジョンの下の階へと続く階段の近くまで来てしまった。


 そこで俺はモンスターではなく、大きめのカバンを背負った中年男性に出会った。


 どうやら怪我をしているようで、顔には分かりやすく切り傷やすり傷がついていた。すぐに駆け寄って安否を確認する。


「大丈夫ですか!?」

「あ、ああ。大丈夫だ。少し休んでただけだよ」


 男はそう言うと、カバンから水を取り出し口に流し込む。


「君、冒険者? ここから先は危ない。特に今日は。引き返しなさい」

「でも、中に知り合いがいて……」

「もしかして金髪の嬢ちゃんの知り合いかい!?」


 そう言うと、男はダンジョンでミリアに助けられたことを説明し始めた。


 そして、彼はミリアに「ダンジョンの奥はどっち?」と聞かれたと言う。


 やはりミリアはダンジョンの奥に向かっているんだ。道は間違っていない!俺はカバンの男の忠告を受け入れず、階段を下った。


 *


 第二階層。

 ダンジョンを下ったが、見た目的には特に一階と違いはない。違いがあるとしたら……モンスターがいると言うことだ。しかもミノタウロスと思われる斧を持ち、ツノを生やした二足歩行する巨体が……2つ。


 こちらに気付かないで欲しいと願い忍足でダンジョンを進む。だが、そんな願いが叶うわけもなく、と言うか俺がこの階層に着いた時にはもう気付かれていた。


 赤く光る目をさらに光らせ、二匹のミノタウロスが咆哮する。


「くそっ! 二階からが本番だってのかよ!」


 まともにやり合ったら命がいくつあっても足りないと確信した俺は脱兎の如くその場から逃げ出す。走りながら後ろを振り向くと二匹のミノタウロスは激昂した様子でこちらに向かって来ているのが見えた。

 斧を振り回し追い駆ける様は首狩り族とかバーサーカーとかを彷彿とさせる……ってドラクエやってんじゃねぇんだぞ!

 あいにくこっちはパーティ1人で冒険者。僧侶様もいない。神様なんで俺に隠密系の加護をくれなかったんだ!

 だからこそ、俺の戦闘コマンドは常に逃げる、逃げる、逃げる、だ!

 後ろでミノタウロスの斧が起こす爆音が鳴り響く中、俺はただひたすらに逃げ続けた。


 暫くダンジョン内を右へ左へ逃げ、ふと後ろを振り向くと異常事態に気付く。


「あれ? 一匹増えて無いか!?」


 先ほどまで二匹だったはずの牛の獣は一匹増えて三匹になり、俺の背を追う。

 なにこれ!?異常発生してるって聞いてたけどさ……まだダンジョン入ってそんな経ってないんですけど!!

 みんな俺のこと好きすぎない!?それともあれなの!?ミノさん達俺のパーティ!?


 自虐気味にそんなことを考えてしまうのは、仕方ない。人間あまりの窮地に立たされると思考がおかしくなるのだ。今がまさにその状態。

 不意に俺は足を止める。

 ミノタウロスは走ったためか、鼻息荒く、興奮した様子だ。俺は足を止めて、顔中から吹き出る冷や汗を拭うと化け物たちに向き合った。


「俺と君たちで合計4人。なんだかパーティみたいじゃないか? 君たち土地勘ありそうだし、俺と一緒にダンジョン攻略していこうぜ」


 俺は松明灯る土壁を背に、ミノタウロスに話しかける。

 絶体絶命。

 行き止まり、だ。

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