第6話 いざ冒険へ
チュンチュンチュン。
小鳥のさえずりで俺は目を覚ます。前にこの鳴き声って何の鳥?とクレハに聞いたら「スズメ」と返されたのを覚えている。異世界にスズメいるんだな。まあ、異世界って言っても並行世界らしいしね。
昨日はあの後、ミリアが「明日ダンジョンに向かうわ。そのためにも今日は寝る! おやすみなさい!」と言って俺とクレハも寝ることになったわけだけど……
お客様に雑魚寝はさせられないと、自分の部屋を明け渡したクレハは何故か俺の寝袋の隣に布団を持って来て寝始めた。寝始めたと言うけど、俺は寝れなかった!クレハさん本当に勘弁してくれ!純粋な男の子には刺激が強すぎる!睡眠の重要性!
そんなこんなで俺は今、最高に眠かったが、今日もクレハの家で鍛治のお手伝いがあるから早々に支度を始めた。
支度を終えた頃、二階からミリアが起きてくる。服は最初見た時と同じきっちりとした服装で、これから早速ダンジョンに向かうらしい。
「気をつけろよ、ミリア。北のダンジョンは結構強いモンスターがいるって言ってたからさ」
「タケルに心配されるなんて、私も舐められたものね。夕方までには宝具を回収して戻ってくるわ。楽しみにしてなさい!!」
そう言うと、玄関をガチャリと開けてミリアは歩き出した。
ミリアの見送りを終えたところで、オカザキ家と併設されている工房の中にいるクレハから声がかかる。
さあ、仕事の始まりだ。今日も一日頑張るぞ。
俺は頬を叩き気合いを入れ直すと工房に足を踏み入れた。
*
工房に備え付けられているドアを開け外に出ると、そこはレンガで舗装された広い道路に繋がっている。この道をまっすぐ進むと昨日の噴水のある広場に着くのだが、このような広い道路は他にいくつもある。多分この街を上から見たのならば、噴水を中心に民家やお店が円を形成しているんだと思う。
それは置いておいて、そのレンガ道と工房の段差に腰掛け休憩していると、オカザキ家の玄関からクレハがコップを2つ持ってやってくる。
「仕事終わり! プハァ! 疲れた!」
「お疲れ様、タケルくん。はい、お茶」
俺は渡されたお茶を一気に飲み干す。異世界だと言うのにお茶の味は変わらない。お茶……素晴らしい日本文化だ。
体に染み渡る最高の一杯だと思う。
「そうだ、昨日の話なんだけどさ。宝具って一体なんなの?」
「昨日言った通り私の家系の人が代々作ってる装備の総称かな? 世の中に多分100本ぐらいあると思う」
「かなりレアだな。それで宝具って言うからには強いんだよね?」
「それはもう。ギルドや国の力関係を決めるぐらい凄いんだよ!」
クレハは装備のことになるとやたらとテンションが高くなる。流石鍛治屋の娘と言ったところか。
彼女から色々と聞いて分かったことがある。この世界にはギルドと呼ばれる小集団と、それが大きくなって出来る、国という2種類の集団があるらしい。
そして現在一番大きな国と呼ばれるのは『トウキョウ』なんだとか。東京いつのまに国になったんだよ。ちなみに俺が今いるこの街は『ミト』と言って、規模としては小さめの田舎ギルドだそうだ。
大体のギルドは宝具を持っていて、それによってギルドの力関係が変わってくる。
ミトも宝具を持っているのだが、それはどうやらワケありなものだそう。
「それで、うちのギルドの宝具がワケありってどう言うこと?」
「言ってしまえば、欠陥品なの。確かに凄い力を持っているんだけど、それを使うことは誰も出来ない」
「なんだそりゃ」
「タケルくんはドラゴンがどうやって炎を吐くか知ってる?」
「そもそもドラゴンがいることすら知らない」
「うそ! タケルくんの世界にはドラゴンいなかったの!? これは話がややこしくなりそう……魔法石の話だけするね」
「魔法石?」
課金アイテム見たいなの出てきた。実際はマジで現実にあるんだと思うけど。
「魔法石と言うのはね、魔力の貯蔵と変換を行う石のことなの。使用者の魔力や空気中の魔力を吸収して、中でその石にあった特性の魔力に変換する。そうして魔法石ごとに違う魔法を使うことができるの」
「それは凄いな。もしかして魔法石があれば俺も魔法使えるか!」
「多分出来ないと思う。タケルくん、今までも
「やっぱり俺には魔法が使えないのか……でも、それなら何で俺に宝具なんて渡そうとしてるんだ?宝の持ち腐れだろ」
俺は首をかしげるが、クレハに話は最後まで聞いてと怒られる。
頬を膨らませたクレハは可愛いかった。
「この魔法石なんだけどね、一般的に世の中にあるものは高くて純度50%に満たないぐらいなの。魔法石は純度が高くなればなるほど、周りから吸収する魔力の量が多くなってね、50%の魔法石なんて言ったら結構取り扱い注意なんだよ? 長く触ったら魔力がとられて気分が悪くなっちゃう」
「へー、それは危ないな。魔力がとられるってことは俺には関係ないけど」
自虐的に言ったつもりが、クレハは「正解!」と言って笑みを浮かべる。何か言ったか俺?
「そう! その通りだよ! いくら純度の高い魔法石でもタケルくんなら関係ない。だから私たちのギルドのワケあり宝具はタケルくんにしか使えない。だって…………」
「だって……?」
「私のおじいちゃんが作った、その宝具の正体は、純度99%以上の魔法石なんだから!なんでそんなの作っちゃったかなー確かに凄いんだけどね」
空を見上げおじいちゃんにため息をつきながらクレハは苦笑いしていた。雲ひとつない空から注がれる太陽の光に彼女の長い黒髪、そして首元に流れる汗が輝く。気温が高いわけではないが、先ほどまで工房で鉄を打っていたため相当な汗をかいていた。
その後もクレハの宝具に関するお話は続いた。その宝具を製造するために、他の宝具を使っただとか。あまりに使えないものだから、ギルドに収めようとした時に断られかけただとか。触っただけで気分が悪くなるもんだから、『呪いの宝具』と揶揄されてるだとか。
正直クレハのおじいちゃん何がしたかったんだ……
休憩の時間が終わろうとした頃、と言っても俺はもう仕事終わりなんだけど、広場とは逆の方向が騒がしくなっていることに気がつく。
クレハに今日何かイベントがあるのかと聞くが、首を横に振った。
気になったので彼女と共にその人だかりに近づいて行くと、なにやら怪我をした冒険者のパーティがギルドの救護班に治癒の魔法をかけてもらっているところだった。
人だかりの隙間を縫って近付き、俺は今にも気を失いそうな同い年ぐらいに冒険者に問う。
「何があったんだ?」
「ミ、ミノタウロスだ……しかも異常発生してて……」
そこまで行ったところで冒険者の意識は途絶えた。隣の冒険者にも同じ質問をすると
「北のダンジョンは今ミノタウロスの巣窟になっている。俺はあのダンジョンに潜って40年は経つが、今まであんな数のミノタウロスをみたことがねぇ……命があるまま帰ってこれたのが不思議なくらいだ」
頑丈そうな装備に包まれた歴戦の戦士のような風貌の男は完全に怯えた様子だったが、状況を教えてくれた。
ミノタウロスってどんなモンスターだっただろう?
元の世界では確か、斧を持った牛のモンスターだったと思う。俺は斧を持った牛が、目の前に現れたらどうだろうと想像する。正直怖い。めちゃくちゃ怖かった。
あれ?ミノタウロスに話を持ってかれたけど、何か重要なことを聞き逃していないか?
「ミノタウロス、異常発生」違う。
「北のダンジョン」これだ。
今目の前で治癒魔法をかけられているパーティの人達は北のダンジョンでミノタウロスにやられた。
そして俺は今日、朝に北のダンジョンに向かった人間を知っている!
人だかりから外に出ると、心配そうにクレハが駆け寄ってくる。クレハに北のダンジョンの話をすると、彼女は目を見開き驚きを隠せずにいた。
「俺は今から北のダンジョンに向かう」
「ダメだよ、タケルくん。そんなの私が許さない」
街を出ようとしたところ、クレハに腕を掴まれる。恐ろしいほどの握力を感じるが不思議と痛くはなかった。
「許すとかじゃない。ミリアは俺の装備を取るために今ダンジョンに潜ってるんだ。俺が助けに行かないで誰が行くっていうんだよ」
「タケルくんは悪くない! あの女をダンジョンに行かせたのは私! だったら私も行くから」
「クレハは午後の仕事があるだろ? 工房に戻ってくれ」
「でも…………そんなの関係ない! 私は仕事よりタケルくんの方が大切……」
「クレハ!!」
彼女の言葉を遮り、名前を叫ぶ。
「俺だって男なんだ。プライドってものがあるんだよ。クレハに助けられっぱなしじゃ、カッコつかないだろ?」
「タケルくん……」
「心配すんなって! 元の世界じゃ俺も中々強かったんだぜ? 足の速さにも自信があるし、いざとなったら逃げれるさ」
俺のその言葉を聞き、クレハの腕が解ける。
下を向き、長い髪で顔が隠れてしまったクレハに俺は走り出しながら言う。
「夜までには帰るから! 一緒に夕飯食べような!」
「う、うん! 死んだらタケルくんの肉でシチュー作っちゃうんだからね!!」
「勘弁してくれ! 行ってくる!」
街の出口になっている門に向かって走り出す。
こうして、俺の初めての冒険は幕を開けた!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます