第5話 宝具ってなんだ?

「何を言ってるの……ですか?」

「言葉の通りよ。私にはあなたが必要なの。ちょっと交渉したいから……そうね、あなたの両親がいる部屋まで案内してくれるかしら? この話はあなたの両親にも同意してもらわないといけないことだし、タケルに聞かれたら困る話かもしれないし」

「…………分かりました。タケルくんはちょっとここで待っててね? 約束だよ?」


 そう言うと二人の足音が部屋から遠のいて行った。

 俺は二人替え部屋から出たのを確信した後、頭に巻かれたタオルを取る。タオルで息苦しかったから、空気が美味しい。

 一体二人は何の話をしているのだろう。俺に聞かれたら困るって……可能性としては、女の子にしか話せない様な話。でもさっきの雰囲気でそれは無いか。そもそも女の子にしか話せない話ってなんだ。

 他にあり得そうなのは……考えてるうちにクレハたちが帰って来た。先ほどまでの険悪なムードは感じられない。


「話は終わったのか?」


 クレハは少し頬を緩め、頷いた。ミリアは一仕事終えた様な満足した表情で、腕を頭の後ろで組んでいた。

 帰ってきたミリアは服を着ていた。多分クレハのお下がりだろう。胸のあたりがぶかぶかだ。


「クレハ、あなたの口から説明しなさい。別に私がしても良いんだけど」

「私がするから大丈夫です」


 そう言うとクレハは俺の前で正座する。


「タケルくん。私、この人と一緒に旅に出ようと思うんだけど、いいかな!?」

「旅!? いきなり何言ってんだよ」

「それもね、ただ冒険したいとかじゃなくって、私の未来にすごーく関係してることなの! だからお願い……!」


 両手を合わせてクレハは懇願する。

 えー、訳が分からない。何で俺は今、こんなにお願いされているのだろうか。俺は初詣の神社にでもなってしまったのだろうか?

 クレハが旅に出ると言うのは確かに俺にかなりの影響があるのだと思う。職場や食に関してオカザキさんの家にお世話になりっぱなしだ。

 思い当たるとしたらそこらへんで、つまりこのお願いは「私がいなくなっても一人で生活出来る?」ということに違いない。

 全くお前は俺のお母さんかよ。大変になるだろうけど、俺も男だ。自分のことは自分でやらないと格好がつかない。


「俺のことは心配しないで大丈夫だ。思う存分旅を楽しんで来てくれ! ただ、鍛冶屋での仕事は引き続きやらせてもらっても……」

「何言ってるの、タケルくん? タケルくんも一緒に行くんだよ?」

「は!?」


 思わず上ずった声を出してしまう。


「私が旅に出るのに、タケルくんが一緒に行かないなんて選択肢あるわけ無いよね? 私たちもう夫婦みたいなものだし!」

「何その謎理屈!? と言うか俺たち夫婦じゃないだろ!?」

「タケルくんこそ何言ってるの!! 一緒にご飯食べて、一緒に働いて、一緒の家で寝たんだから私たちはもう夫婦なの!」

「確かに全部したけど、その考えで行くとクレハのお父さんとも……」


 そこまで言ったところで俺は悪寒を感じた。

 ふとクレハたちが戻って来た扉を見ると若干それは開いていて、誰かがこちらを覗き込んでいた。

 あれって間違いなくクレハのお父さんだよね!?

 さっきの発言かなり際どかった!?

 いやぁ、本当にすいません!言葉って難しいなぁ!


「コホン! クレハの言い分は分かった。夫婦じゃ無いけど、友人のお願いってことなら無下には出来ないな。俺も一緒に旅に出ようじゃないか」

「タケルくんのいけず……」

「兎に角、これで第一関門突破ね! 嬉しいわ!」

「第一関門?」


 ミリアが突然そんなことを言うので、思わず復唱してしまう。


「そう。さっきミリアさんに話したことなんだけどね、彼女の旅に付いていくにあたって私は二つの条件を提示したの。一つはタケルくんを同行させること。そしてもう一つは、タケルくんのための装備を揃えること」

「何だか随分と俺に偏った条件だな」

「しょうがないでしょ。今のままタケルくんが街の外に出たら半日で死んじゃうよ?」

「た、確かに……」


 正直恥ずかしい話だが、俺は多分この世界でかなり弱い生物なんだと思う。

 魔法は使えないし、それだけじゃなく、魔力器官なる器官が体に備わってないせいで魔法を使った道具すら使うことができない。

 保育園のアルバイトの時、魔法を感知してスイッチが入るタイプの電球をつけることができず、子供達に笑われたのは相当痛い思い出だ。


「その装備について何だけどね、実はタケルくんにすっごくぴったしなのがあるの!」


 クレハは嬉しそうに胸の前でパシリと手を合わせる。反動でその巨大な双丘が揺れに揺れた。出そうになった鼻血を抑える。


「どうやらここから少し北に行ったとこにあるダンジョンにそれは封印されてるみたいなのよ。それを私が無事に回収できたら第二関門突破ってことね!」

「封印って、そんな大層な装備があるんだな」

「うん。結構なレア物だよ。形成す炎クサナギって言う指輪の形をした装備でね」


 クレハはそう言うと手で筒を作りこれぐらいと大きさを教えてくれる。本当に小さい。

 そして、何食わぬ顔で目の前の少女はとんでもないことを言い出す。


「それは私の……正宗一門がこの世に生み出す、いわゆる『宝具』と言うものなんだ」


 自慢げに笑うこの少女は一体何者なんだ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る