第4話 貴方がほしい!

 時刻は9時を回ろうとした頃、俺はオカザキ家のリビングで正座をさせられていた。

 気を回してくれたのかクレハの両親は二階の寝室に颯爽と消える。


「タケルくん?あの女……誰?」

「実はだな………」


 俺は、連れて来た金髪碧眼の少女ミリアについて問い詰められている。当の本人は今、濡れた体をお風呂で流しているところだ。俺も風呂に入りたい。


 俺はクレハにここに来るまでの経緯を説明する。


 ***


「それで、ミリアはこの街に何しに来たんだ? 追われてるって言ってたけど、まさか犯罪して逃亡中だとか」

「失礼ね! でも半分当たってるわ。そう、全ては私が悪いの! 私の犯罪級な美貌と魔力がね……」

「お、おう……」


 空返事で返す。話をしているとこの子のことが段々と分かってきた。ミリアはかなりバカだ。いや、実際はさっきみたいに知識はあるんだけど、性格的にバカってやつだ。

 犯罪級な美貌は置いておいて、魔力に関しては犯罪級なんだと思う。先ほど見せてもらったミリアのステータスには魔力がSSSと書いてあった。上限が一体いくつなのかは知らないが、表記的にこれより上があるとは考えにくい。


「タケル、あんたは知らないかもしれないけど、この世界は結構おかしなことになってるの。『トウキョウ』が最近不穏な動きを見せててね。優秀な人材をことごとく引き抜きしている」

「ん? それって変なことなのか? 優秀な人の引き抜きぐらい普通じゃないか?」

「まあ、引き抜くだけなら普通なんだけどね。城の中に閉じ込めてるのよ。そして帰って来るものは誰一人としていない」


 妙に怪談話をするような雰囲気で話を進めるが、話し手がミリアなので緊張感はなかった。


「それで?」

「勿論、私も引き抜かれそうになったわ。でも私は言ったの。パパとママとお兄ちゃんと一緒なら良いってね。でも、引き抜きの対象は私だけだったのよ!」

「パパとママとお兄ちゃんって……ミリア可愛いな」

「な、何言ってるのよ!! さっき出会ったばかりの女の子を口説いてんじゃないわ! この変態!」

「いや、口説いてねえよ!?」


 顔中真っ赤にするミリア。ブンブンと手に持った剣を振り回しながら照れるので危ないったらありゃしない。


「んっ! それで無理にでも連れて行こうとするもんだから…………『トウキョウ』上層部からの刺客をボコボコにしちゃってね」

「結局暴行罪で指名手配じゃねえか!!」


 さっき犯罪じゃないとか言ってたのになんだこれは!やはり相手にしてらない!


「待って! 話はここからなんだわ! そろそろほとぼりが冷めたかなーって家に帰って来た時、私の生活はめちゃくちゃにされていた。まず家がない。勿論だけど、パパもママもいないしお兄ちゃんもいない。近所の知り合いに聞いたらみんな上層部のせいだっていうだけでハッキリとは答えてくれなかったわ。でも察しが良ければわかるでしょ?」


 声のトーンが暗くなる。状況は察した。

 確かに暴力を振るったのはミリアが悪いが、国をあげて一つの家庭を壊すだなんて決して許されることじゃない。胸糞悪い。思えば俺をこの世界にに連れて来た時の対応も少し、いや、かなり強引だったと思う。力がないと分かった瞬間、切り捨て、その日のうちに田舎町に飛ばした。『トウキョウ』の上層部ってのはそう言う考えの奴らなんだろう。

 力が全てだなんて思っているのかもしれない。


「怒った私はまた『トウキョウ』で暴れたわ。そして……なんやかんやあって逃げてきた。帰る場所を失った私は旅をしてるの。旅の目的は……『トウキョウ』への復讐。そして私に協力してくれる人物を探している」

「その人物がここにはいるのか?」

「ええ…………」


 ミリアは大きくためを作り俺をまっすぐ見据えて答えた。


「オカザキと言う姓で鍛治師をしている人がここにはいるはずだわ」


 ***


「と言うわけなんだ。オカザキで鍛治やってるのってここしか心当たりないからさ。クレハの知り合いか何かか?」

「あの女は知り合いじゃない。それにしてもタケルくんあの女と随分馴れ馴れしい関係だよね? タケルくんこそ知り合いだったんじゃないの? 元カノ?」

「いやいやいや、俺がこの世界に来たの1週間前だって言ったろ? そもそも、彼女なんて元の世界でもいない」

「本当に!!!? やった!! タケルくんの純潔はまだ守られてるってことでしょ!」


 クレハは露骨に俺に彼女がいないことにはしゃぐ。

 ちょっと傷つくからやめてほしい……


 そうこうしているうちに、ミリアがお風呂から出て来た。そして俺は彼女の格好に目を見開く。身につけている物は下から、ピンクのパンツ、ピンクのブラジャー……以上。現場からの報告でした。

 俺の顔にふんわりとしたタオルが巻き付けられる。


「何も見えない」

「見なくても良いんだよ、タケルくん? それよりあなた、ちゃんと服を着てください。タケルくんを誘惑しようとするなんて、私怒りますよ」


 淡々とそう告げるクレハの声に合わせて、何かカチャリと言った音が聞こえる。

 まさかクレハ刀を構えてないか!?

 家の中でなんて物騒な……と思うが、そもそもクレハの家にはたくさんの刀が飾ってあった。家が鍛冶屋だからね、仕方ないね。


「誘惑? タケルを? 違う違う、そんなつもりはなかったわ。ごめんなさい。でも、私は今日ある人を誘惑しにここに来たのよ?」


 タオルを巻かれて様子がわからないが、多分ミリアはクレハを指差しながら次の一言を放つのだろう。


「オカザキクレハさん。私はあなたが欲しい!」

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