第3話 ステータスが見れない不具合

「ムシャムシャムシャ…………」


まるでウサギが人参を食べるかのようにパンの耳を少女は前歯で器用に噛み、次々と胃袋に収めていく。

俺は屋台を眺めるのをやめて彼女を見ながらフランスパンっぽいパンをかじっていた。

しばらくして俺がパンを食べ終わる前に、彼女が食べ終わり物欲しそうな目で俺のパンを見るので半分千切ってあげるとそれもムシャムシャと食べた。

そして噴水の水をゴクリと飲むとこぼれた水が喉を伝った。


「プハァ!! 生き返ったわ! あんた良いやつね!」

「それはどうも。それより、なんで噴水の水の中に埋まってたりしたんだ?」

「空腹よ、空腹。ここにくる途中に財布を落としちゃってね、もう最悪って感じよ。 危うくカツアゲに手を出しかけたわ。踏みとどまらせてくれてありがとう。礼を言うわ」


彼女は美味しそうに水を飲むとそう言った。なんだか的を得ない返しだけど、空腹で倒れたと言うことで間違い無いと思う。そして俺の知り得ないところで、俺が犯罪を止めていたらしい。風が吹けば桶屋が儲かると言うやつか。


「ここに来る途中って言ってたけど、君はこの街の人じゃ無いのか?」

「そうね。 私は『トウキョウ』の出身よ。 こんな田舎ギルドとは縁もゆかりもない都会っ子ね!」

「言い方キツくないか!?えーっと、『トウキョウ』ね……俺も実は『トウキョウ』から1週間前にここに来たんだよな」

「そうなの!? それは良い偶然だわ……って、もしかしてあんた『トウキョウ』からの刺客だったりしないでしょうね!?」

「は、はぁ!?」


露骨に戦闘姿勢を取る少女に若干の嫌悪感を覚えながらも、明らかに彼女は勘違いをしているので訂正を入れる。


「刺客ってなんだよ?」

「刺客とは私の力を狙う『トウキョウ』の上層部の人のことよ! 私は今追いかけられてるの!……多分だけど!」


多分ってなんだ、多分って。

被害妄想の強いおかしな人なのかもしれない。

あとで病院をすすめておこう。


「それは絶対あり得ない。『トウキョウ』の上層部ってそもそも何なのか知らないし、俺は『トウキョウ』から来たって言っても『トウキョウ』にいた時間なんて半日かそこらだぞ? 」

「そうなの……? うーん、まだ不安だからステータスを確認させてもらうわ。別に良いわよね?」

「良いよ。それで納得するなら」


そう言うと少女は俺の胸元を凝視し、少し前屈みになった。

濡れた金色の髪が頬に付き、また濡れて肌に張り付いた服に艶やかさを感じずにはいられなかった。

体は正直、普段クレハのを見慣れてるからお粗末の一言だが、こう言ったシュチュエーションにはドキドキせざるをえない。

ん。ステータスを確認し終わったみたいだ。


「あんた怪しいわね。私こんなステータスの人見たことないんだけど」

「いや、そう言われても……俺だってどうしてこうなったのか知りたいよ」


口での説明が難しいと言うので、俺は胸ポケットからオカザキさんの家から貰った黒い手帳とペンを彼女に渡す。

彼女は俺の胸らへんを見ながらスラスラと俺のステータスを書き上げる。



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オオワダタケル

筋力:S

魔力:F

体力:B

技量:C

経験:E


加護:【世界の加護ギフト】加護を持つ

魔力不適合アンチマジック】魔力器官が存在しない

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「ほらおかしいじゃない! まずここ!【魔力不適合アンチマジック】これは普通の、少なくともきちんと話せてきちんと歩けるあなたみたいな健常者が持ってる加護じゃないわ。魔力器官が存在しないってのは重度の障害を持つ人が併発するものだって相場が決まってるの」

「お、おう…………」

「次にこれよ。【世界の加護ギフト】世界の加護ってのは加護のかつての正式名称よ。あまりに世の中に浸透してないから、私たちの目には加護として認識されるけどね。この世界の加護、と言うワードには使い方が二つあるわ。一つは考古学的な論文で、もう一つは【虚偽フェイク】と呼ばれる幻覚系の魔法を使うものが自分に魔法をかけた時に加護の中で現れる……」


そこまで言って、俺の渡したペン先を俺に向ける。


「つまりあんたが【虚偽フェイク】の加護を持つ『トウキョウ』の刺客だってこと。チェックメイトよ!」

「完全に言いがかりだ!!」


ドヤ顔を向ける少女に俺は叫んだ。

疑われているのは辛いことだが、色々少女はこの世界について詳しいらしい。

もしかしたら俺が元の世界に帰るための方法を知っているかもしれないし、できれば仲良くなっておきたい。

俺は冷静に優しい口調で話しを続ける。


「なあ、君はこことは違う世界、特に並行世界があるって言われたら信じるか?」

「何よそれ、信じるに決まってるじゃない」

「そうだよな、信じられ……え?」


頭にはてなマークを浮かべる俺に、少女ははてなマークで返した。

どう言うこと?この子は俺のいた世界について知ってるのか?


「その並行世界がどうしたのよ」

「あ、ああ。俺、実はな並行世界からこっちの世界に連れてこられたんだ。それが1週間前」

「なるほどね……リリって子を知ってる?」

「リリ……そう言えば!」


俺はリリという名前に聞き覚えがあった。

俺がこの世界に召喚された時、あの狭い面接会場……だと思ってたところで終始寝ていた女の子のことを青年は「リリ」と呼んでいた気がする。


「俺がこの世界に来た時にいたと思う。終始寝てたけど」

「……ふん。じゃあ、あなたがこの世界に来た時の状況を教えてもらえる?」


次から次に質問が飛んでくる。

なんだか警察に事情聴取されてるみたいで嫌な感じがするけど、彼女の信頼を獲得するためだ。

自分の持ち札は余すことなく無く見せびらかそう。


「狭い部屋で背の高い好青年に出会ったな。それと3メートルくらいありそうな斧持った大男。さっき言った眠っちゃってた女の子に……」

「そこじゃないわ。もう少し前。あなたが元いた世界で何をしてその青年にあったのかしら?」

「言っても分からないと思うけど……その日は大学の面接でさ、面接会場に入ろうと扉を開けたらその部屋に……」

「了解。分かったわ。あなたの今の証言からあなたが嘘をついていないことが分かった」


そう言うと彼女は左手をパチンと鳴らす。

どこで納得したのかは知らんが、どうやら俺の容疑は晴れたらしい。


「状況から察するにあなた……タケルだったわね。タケルはリリと言う子の召喚魔法によってこの世界にやって来た。扉を使った召喚魔法はあの子の十八番だし、大掛かりな召喚をした後に寝ちゃうところも一致してるし間違い無いと思うわ。異世界の門を繋いだら休憩が必要になる……これは良い情報だわ」

「……そうか。疑いが晴れたようで嬉しいよ」

「ごめんなさいね、タケル。少し警戒しすぎてたわ。このとおり」


彼女はそう言うと深々とお辞儀をする。


「お詫びと言ってはなんだけど、私のステータス見てもいいわよ。信用した今だからこそ見せられるわ」

「あ、それなんだけど…………」


俺は申し訳なさで下を向く。

何のこと?と首を傾げる彼女を見ていると、この「ステータスを見る」と言う行動が如何に初歩的で日常的な物なのかを実感してしまう。


「俺、自分でステータス見れないんだ」

「何よそれ、本気?……ってあなたは他の世界から来て魔力器官も持ってないようなイレギュラーだからそう言うこともあるのかもしれないわね。いいわ。私がステータスを書いてあげる。感謝なさい」


そう言うと彼女は再び、手帳の1ページにスラスラとステータスを書き込んでいく。

自分のステータスだからか、彼女の筆は速かった。

一通り書き上げたところで、彼女は口角を少し引き上げ、笑みを浮かべる。


「そうだ! この世界に来たばかりのタケルに少しレクチャーしてあげるわ! この世界は、人々が皆、世界から加護ギフトと呼ばれるものを授かっている。加護は十人十色、千差万別。同じ加護、同じ魔法でも中身が違うってのは良くあることなの」

「それで……?」

「あなたを召喚した人は、扉を使った召喚魔法を得意としていたわね。そして私は……」


彼女はそこまで言い、右手を縦に切るとそこにあった空間が裂けた。

気を抜いたら吸い込まれそうな藍色の空間の裂け目に彼女は手を突っ込み、一本の水色に輝く細身の剣を取り出した!


「私はミリア。ミリア・ネミディア。固有空間からの召喚魔法を得意とする、超絶可憐な美少女よ!」


これが俺と美少女の可笑しくも可笑しい出会いだった。



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ミリア・ネミディア

筋力:B

魔力:SSS

体力:A

技量:S

経験:C


加護:【時間タイム】時間を司る魔力を有する

召喚サモン】召喚を司る魔力を有する

固有空間マイルーム】自分の空間を有する

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