第2話 噴水から美少女
オレンジ色の太陽の光が横から工房の窓を通して俺を照らす。
工房内はあちらこちらに鉄塊が横たわっており、また壁には作った武器や防具が飾られていた。
今日の分の作業が終わった俺は仕事場である工房を後にしようとしたところ、後ろから呼び止められる。
「タケルくん。今日もありがとうね。本当に助かったよ」
「いや、俺の方こそ本当に助かってる。魔法が使えない俺に働き口をくれるのはここと保育園ぐらいだし」
「タケルくん、一応冒険者って肩書きなんだからダンジョンに行ってみたら?」
「無茶言うなって。絶対死ぬだろ!スライムすら倒せないと思うぞ!」
俺の素振りにクレハが笑みをこぼした。
俺が異世界に召喚されてから一週間が経つ。何がどうしてこうなったのかは未だに分からないけど、確かに俺は異世界へと召喚されてしまった。
異世界に来てからこの世界について分かったことがある。
まず一つ、この世界は異世界ではなく並行世界であると言うことだ。異世界じゃねえじゃねえか。これは俺が召喚されて最初に話したあの青年が言っていた。本当に?と最初疑っていたが、召喚された場所が『トウキョウ』と言う土地だと言われて納得した。残念ながら東京タワーはないみたいだけど。
そして二つ目、この世界には
俺にも一応加護はあるんだけどな!
「まあ、無理はしないでね。タケルくんに死なれたら私泣いちゃうんだから」
「泣いちゃうって大袈裟な……」
「どうしてもダンジョンに行かないといけないぐらい生活に困ったら私に言うんだよ? タケルくんを受け入れるの十分なお金と、十分な心の準備はしてあるからね?別に今すぐでもいいけど」
「あはは……もし、そうなった時は頼むよ」
「もう、タケルくんのいけず……」
そう言うとクレハは頬を膨らませて工房の中へと姿を消した。
俺がこの世界に来て最初に話しかけてくれた人、それがクレハだ。本名はオカザキクレハ。
黒くスラリと長い髪が腰のあたりまで伸びており、幼い顔ながら体は肉付きが良く、特に……胸は相当なもので、出会った時には思わず凝視してしまった。
家は鍛治の仕事をやっていて、クレハもその手伝いをしている。彼女の持つ加護は仕事に相応しい【鍛治】だそうだ。
出会った時から、何故か俺に熱烈なアプローチをかけてきて、いつも刃物持ってるからヤンデレの素養があって少し怖い。
しかし好意を向けてくれるのを無下には出来ないし、オカザキさんの家には食べ物だとか仕事だとか色々お世話になってるからなおさら無下には出来ない。
もう俺にはヤンデレルートしか残ってないのか?
仕事が終わったので俺はどこかでご飯を食べようと街に繰り出した。太陽はもう完全に落ちかけていて、今の季節が秋であること、腹の音を考慮するとそろそろ7時だろう。
時計も欲しいな。街に売ってると思うけど買うのはもう少しお金が貯まってからだ……って、もう異世界生活に慣れてしまっている。普通、こんな状況になったら早く元の世界に帰りたくなるはずなのに。
まあ、仕方がないか。
異世界に来て分かったこと、その三。
俺が元の世界に帰る方法が分からない。
これもあの青年に聞いたことだけど、俺を召喚した主は俺を異世界に返す方法が分からないらしい。誰か異世界と元の世界の間でクーリングオフ制度を作ってくれ。全く迷惑な話だ。
勝手に異世界に呼んでおいて、俺に魔法の適性が無いと分かったらすぐにこんな田舎の街に飛ばすんだからな。俺の今いるこの土地は、地理的には元いた世界の茨城に対応していると思われる。彼れはイバラキとか言ってたし。
茨城ってどこらへんだっけ?確か北陸の方だった筈だ。
でも、田舎だからこそ魔法が使えなくても働き口があり、そこは少し感謝している。『トウキョウ』では魔法が使えることは当たり前で、さらに個々のレベルも高いと聞いた。そこは元いた世界にも通ずるとこがあるかもしれない。
どこかお店で食べようかとも思ったが、お金もないしここ一週間で常連となったパン屋で焼きたてのフランスパンっぽいやつを買い、おまけでパンの耳を貰った。
パンの耳を入れたら量があるし半分は明日の朝に回すとしよう。
噴水のある広場まで行き、噴水の前に腰掛ける。
ここは結構落ち着いた雰囲気だし、広場を囲う屋台のオレンジ色の光がなんとも幻想的で楽しい。
こんなパンだけの夕飯もこの景色が一緒なら少しはマシになるってもんだ。それに噴水の水飲めるみたいだしな。ここが一番重要だった。
屋台を眺めながらパンを食べていると、後ろで何か違和感のある音がした。
噴水の出す音じゃなく、ボコボコとした音だ。
音はだんだんと大きくなっていく。流石に何かおかしいと周りを見渡すと背後から水飛沫が上がった。
そして…………水飛沫の中から金髪碧眼の美少女が飛び出して来た。
……………………………………………………………………誰?
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