静寂の番人

 ゆらりゆらりと小指の先に灯った炎が揺れ、こつりこつりとブーツの踵が音を鳴らす。秘密の地下室というものはどこの世界でも黴臭くて埃っぽいのがセオリーだ。一寸先は闇の中、終わりの見えない長い螺旋階段を降りながら、コーネリアは普段から寄っている眉間の皺をさらに深くしていた。

 自分が当てる音全てが、壁を、天井を、床を走り回り、鼓膜をノックする。逆に言えば、自分の立てる音以外は何も聞こえなかった。耳が痛くなるほどの、完全なる静寂の中に彼女はいた。騒がしいのは好かないが、静かすぎるというのも考えものだ、と少々わがままなことを彼女は思った。いったいここは、どのくらい地下深くなのだろう。地図もなく、果てがどこかも分からないままだが、彼女は歩みを止めることはなかった。まるで何かに魅入られたように、熱に浮かされたように歩き続けている彼女を見つめるのは、指先に灯した炎以外にはなかった。


 歩いたのは十分か、半時間か、一時間か。もしくはそれ以上なのか。だんだんと肌寒さが増してきた頃に、コーネリアは足を止めた。何か大切なものを匿うように、危険なものを閉じこめるように、重厚な木で作られた扉が彼女の前に佇んでいたからだ。錆びた閂がかけられた扉の存在は、その向こうに何か秘密があることを示していた。煉瓦の向こうの扉の奥には、どんなロマンがあるのだろうか。

 今更だが、完全にお宝探しのつもりでコーネリアはここまで探索をしてきている。それは幻惑の森に足を踏み入れたときから変わっていない。龍生にはスリルが必要なのだ、彼女の場合は特に。それは彼女の今の旅の目的にも合致していた。――この、この国のどこにあるかも分からないたった一つのお宝を探す旅に。


 指に灯していた炎を消し、錆び付いて固まった閂を押し上げようとすると、金属同士の擦れ合う不快な音がコーネリアの鼓膜を揺らす。ぱらぱらと錆が剥がれ、徐々に閂は上に上がっていった。あとは両開きの扉を押し開ければ、扉の向こうへゆけるだろう。彼女が扉の取っ手を掴んで引くと、細い光が扉の隙間から漏れ出てきた。それは扉が開くごとに太さと明るさを増し、コーネリアを迎え入れるように広がっていく。


 彼女の足下の影が蠢き、ややあって長く、長く伸びていった。

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