顔に出る子は損をする
「はーいあたしの勝ちだガキんちょ共。寝かせろ~」
「えーやだー!!もう一回!ね、もう一回だけ~!!」
「やかましい!そう言ってもう三回以上やってんじゃないか!神龍サマの情けも三度までって言葉知らないのかい!」
「っていうかコーネリア、トランプ強いね…?全然勝てない…」
「あんたが顔に出すぎなだけだよ」
結局トランプゲームは、とっぷりと夜が更けるまで続いた。乗り気でなかったコーネリアはそれに輪をかけて眠くなってきているようで、早いところ寝たいという気持ちがその全身からにじみ出ている。だがしかし負けず嫌いなところも同時に出てきたようで、双子相手にも遠慮なく仕掛けてくるコーネリアにアランは翻弄されっぱなしであった。先程から数連敗しているアランにも、そろそろ睡魔が忍び寄ってくる時間になってきている。これ以上相手をしていても負け続けるだけだと彼女は分かっていた。とにかく眠い。旅を始めてからは夜勤の仕事を外れ、コーネリアと出会ってからは野宿の時の見張りを彼女と交代でやっていて、割と規則正しい生活をしていたから余計にだ。流石にこれ以上は無理だと踏んで、かなり眠たい声でアランは双子へと声をかけた。
「ほんとごめんね…俺たち、ここに来るまでずっと歩いて来て、もう眠くて…」
「もー、大人ってたいりょく?がないんだから。シャルルのいってたとおりだね」
「たいりょくがないのはうんどうしてない大人のはなしだよ。この人たちはきしなんだから、それはありえない。ほんとうにつかれてるんだよ」
「いや、あたしは騎士なんかじゃ」
「それもそっかぁ。んー、じゃあまたあしたあそんでよ、アラン!」
強引だが、ロッタはわりと聞き入れがいいらしい。もしかして兄弟に諭された時限定かもしれないが。あっさりとトランプを片付け始めるアランがロッタを手伝う傍ら、シャルルは本を開いていた。随分と古ぼけた本で、表紙には若干消えかけているが、大きな木の絵が書かれているようだ。まるで世界樹のような――世界樹?
「ねぇ!!この本、どこで見つけたの!?」
「うわっうるっさ」
まるで食らいつくように上げられたアランの声に、迷惑そうな顔を隠そうともせずコーネリアは言葉を漏らした。アランはそれにもお構いなしに身を乗り出し、シャルルが開いた本をロッタとシャルルに指し示す。彼女の質問にはロッタが答えた。
「うちの下にしょこがあって、そこにあったんだよ。シャルルはとってもあたまがいいから、こんな本もよめちゃうの!すごいでしょ!」
「……やめてよロッタ」
片割れのことを自慢げに話すロッタに、シャルルは不満げに言葉を漏らした。アランたちが聞いているから、照れたのだろう。ロッタはえーなんでー、と不満そうに頬を膨らませるも、しぶしぶといった感じで口を閉じた。口を閉じた双子とは対照的に、先程とは一変して目が覚めたアランは、シャルルが抱えているその大判の本を、双子がメイドに呼ばれて去っていくまで食い入るように見つめていた。
「ったくいきなりなんなんだい、耳キーンってしたんだけど」
「……コーネリア。あの本、多分、秘宝の伝説の本だ」
「マジでか。そんなもん、あんたが持ってるやつ以外にあんのかい?」
「そうみたい。本で伝えられてたっていうのは考えてなかったなぁ…話が古すぎるから、語り継がれてる方しか調べてなかった…!」
双子が出て行き、しんとした部屋の中で悔しそうに唇を噛んだアランをよそに、コーネリアは上等な絨毯の上で暢気にくつろいでいる。そういった神経の図太さは見習いたいところだとアランは思った。何かを察したコーネリアの睨みつけるような視線には気づかないふりをして。先程のトランプ勝負といい、俺ってそんなに顔に出てるかな、と思いながらアランは自分の頬をつまんでみた。
「どうだろう、頼んだら読ませてくれるかな、あの本」
「この家の当主サマに聞いたほうが手っ取り早いんじゃないかい」
「それならラシードさんに――」
「アラン様、コーネリア様。お部屋の準備が整って御座います」
「あ、ありがとうございます。……考えるのは明日にしよっか」
先程までの眠気は嘘のように冴えていたが、窓の外に流れる夜はとっぷりと更けていた。申し訳なさそうなメイドに名を呼ばれ、ひとまず睡眠を取ろうと二人は部屋を後にしたのだった。
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