お客さん、遊びましょう

 想像とはずいぶん違う形で足を踏み入れることになったグリーゼ区。そこで出会った、どうやら身分が相当に高いらしい少年たちに、遊んでくれ、とねだられ、まともに承諾もしないうちに彼らの部屋に連れていかれたのがつい五分ほど前の話。アランとコーネリアは、お伽噺に出てくる宮殿のようとは行かないまでも、それなりに豪奢な部屋の床に座らされていた。ふかふかの絨毯が足音を吸いとるのか、あまり足癖がよろしくないはずのコーネリアが部屋に足を踏み入れてもほとんど物音はしなかった。それを言葉に出すと当然のように肘鉄が横から飛んでくるだろうから、アランは口にチャックをする。


「で。なんなんだいこの状況」

「わたしたちとあそんでくれるんでしょ、アルファードきょうのぶかたち!」

「あたしらは一言も遊ぶって言った覚えはないんだけどねぇ?それと部下って呼び方やめな、この真っ黒オニーチャンはともかくあたしゃ騎士サマじゃぁないんだ」

「いや、俺も正確に言えば部下じゃないから!」


 コーネリアが明らかにイラついている。子供相手に隠すこともなく不機嫌さを振りまいている。まだ共に過ごして日は浅いとはいえ、コーネリアが損得勘定に非常に敏感であるということをアランは知っていた。もともとコーネリアは「短気は損気」を体現するような女性だ、だからこそ、自分が損をしないために、滅多に自分の機嫌を出すことはないというのに。今日のコーネリアは、その癖を忘れるほどに、理由も分からぬ不機嫌に見舞われているらしい。


「じゃあ名前おしえてよ!わたしはシャルロット!ロッタってよんでもいいよ!」

「はいはいロッタね。そっちは?」

「シャルル」

「シャルルに、ロッタ。よろしくね。俺はアラン。で、こっちのお姉さんが」

「……コーネリアだよ。変な名前で呼んだら承知しないからねガキども」

「アランにコーネリア!よろしく!!」


 ロッタと名乗った少女は、屈託のない人懐っこそうな笑みを浮かべながら返事をした。シャルルという少年は相変わらずあまり口を開くことはないが、少なくとも警戒はされていないようだ。振りまかれる機嫌の悪さにも臆することないロッタに握手を迫られ、嫌そうな顔で応えているコーネリアは、少し毒気が抜かれているようにアランには見えた。


「そういえば、何して遊びたい?夜だしあんまり騒ぐとメイドさんに怒られちゃうと思うけど」

「トランプしよう!ばばぬきしたい!」

「本読んで」

「一度に喋るなガキんちょども」


 どうやらシャルルとロッタは、見た目と違い趣味嗜好は正反対らしい。ここまで似ているということは恐らく彼らは双子なのだろう。シャルルはどちらかというとあまり賑やかな場を好まないタイプのようだ。ロッタは逆に活動的な様子がよく窺える。彼女は今が昼間だったなら、絶対に外で鬼ごっこをしようと言い出すタイプだ。


「それじゃ先にトランプで、寝る前に本読むとか…どうかな?」

「やめときなアラン、このガキ絶対夜更かしするつもりだよ。あたしがトランプの相手してやるからあんた本読んでやんな」

「やだ!トランプ四人でしたいよ~!!」


 二人でやるより四人でやるほうがゲームは面白い!というロッタの抗議は真っ当なものだった。シャルルが抱えていた本を横に置いたことを皮切りに、四人が向かい合うように座り、ゲームは始まった。

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