二人の少年
「ようこそ」
「ようこそ~!」
回想が終わったところで、冒頭に戻ろう。
大広間に繋がる大きな扉が開かれると、豪奢なシャンデリアがまばゆいばかりに照らし出す空間がその向こうにはあった。今時珍しい長い長い食卓テーブルの上には何もなく、その上座に座っていたのは、顔も声色も背格好もそっくりな二人の少年だった。
「――シャルル様、シャルロット様。ご無沙汰しております」
「は、兄ちゃんこのがきんちょと知り合いなのか?」
「しっ!」
コーネリアは色々と行動力があるのはいいが、やたらと要らんことを口走ったりする。頭を下げるラシードに倣い、アランは慌ててコーネリアの頭を下げさせながら自分も頭を下げた。低くなった目線が横から「後で覚えてろよ」と訴えている。なんで、俺悪くないでしょ…!と必死に目線で会話をしていると、上座に座った二人―コーネリア曰くがきんちょ―が再び喋った。まだ変声期前の高い声であることから、彼らの年齢層が容易に窺い知れる。
「おつとめごくろうである、アルファードきょう!」
「ながたびでおつかれかとおもうが、しばしのあいだしんぼうをおねがいする」
「滅相もございません。お心遣い、感謝致します」
「よきにはからえ~!」
ラシードとこの二人の少年は一体どういった関係なのか。コーネリアはもちろん、ラシードとは古馴染みであるアランすらそれは分からなかった。ただラシードが
「今日はお連れ様がいらっしゃるご様子ですが?」
「ええ。彼らは私の部下です。此度の見回りに同行し、見聞を広めたいと申しておりまして。ご連絡を怠ったことをお許しください」
「構いませんとも。この屋敷も寂れていますからね、若い方がお見えになるのは大歓迎です」
「そう、だいかんげいだ!」
少年たちの横に控えていた初老の男性とラシードが話しているのが聞こえ、アランはそろそろと顔を上げた。横にはまあふてぶてしい態度のコーネリアがいる。彼女とは普通の知り合いよりは長く共に過ごしていると思うが、ここまで嫌悪感を駄々洩れにしている彼女など見たことはなかった。何故だろうと思いながら、ラシード達に目線をやる。どうやらラシードは報告か何かを抱えているようで、例の男性と別室へ移動する旨の話をしていた。ふっとアランとコーネリアに目が合わせられ、目配せをされる。あの目は絶対に「くれぐれも、くれぐれも粗相のないようにな」と言っていると、アランには分かった。ラシードは昔から自分の父母以上に、礼儀礼節に厳しい人なのである。
「では、お連れ様…ええと」
「アラン・クラウフォードと申します。此度はお世話になります」
「……コーネリア」
「アラン様と、コーネリア様ですね。お部屋にご案内致します」
「ありがとうございます」
先程戸口に居たメイドが近づいてきて、にこやかに部屋への案内を申し出た。コーネリアは相変わらず不貞腐れており、必要なこと以外は何一つ喋らない、とでも言わんばかりに口を閉ざしている。どうしてここまで彼女の機嫌が悪いのか、その理由は皆目分からず、アランは咎めるようにコーネリアの肩を叩きながら、その場を取りなすようににっこりと笑みを浮かべた。脇腹に思いっきりコーネリアの肘鉄が入ったので、その笑顔が少し固まったことは秘密だ。
「あっ、アルファードきょうのぶかたち!もうひま!?」
「ちょっと、ロッタ…ひっぱらないで」
と、その時。メイドが背を向けていた玉座の方から高い声がする。いつの間にか姿を消していた男性とラシードでなければ、その声たちの正体はもちろん、二人の少年に他ならない。元気に声を上げるほうの少年が、ステッキを小脇に抱えている及び腰の少年の手を掴んで引きずりながら、こちらへと走ってきている。
「えっ、暇……かと言われればそう、ですかね」
「なんだいがきんちょ共、どいたどいた。あたしらはこれから寝るんだよ」
「ええーっ、せっかくひまなのに!?わたしたちとあそんでよ!あそべー!」
思いっきり嫌な顔をしたコーネリアにも、少々困り顔になってしまったアランにも臆することなく、少年の片方が元気におねだりをしてくる。見目に反しない、年相応の言動だ。なお大人しいほうの少年は表情があまり変わらないが、兄弟と思しき少年の強引さに若干迷惑しているような雰囲気が出ていた。
「シャルル様、ロッタ様、もう遅いですからお体に障りますよ。それにお客様は長旅でお疲れですから、お休みになっていただかないと…」
「ふーんだ!マチルデはいつもそればっかり!もういすにすわってるのはあきたよ!」
べー、と小さな舌を突き出してメイドをからかった少年は、次の瞬間アランとコーネリアの腕を掴んだ。そして走り出した少年の、幼い見目からは想像もつかないくらいの強い力に、二人は腕を引かれて走り出す。そのはるか後方を、意に介さずといった風に、シャルルと呼ばれた少年がのんびりとついていく。
「アラン、コーネリア、わたしたちとあそんで!おへやこっちだから!!」
「あっ、わっ、ちょっ!?」
「ロッタ様!お客様を振り回さないでくださいーー!!」
…メイドの声が響いた時には、既に大広間はもぬけの殻だったという。
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