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母は太陽だった。
見える物全てに容赦なく照り付ける真夏の太陽。
別の言い方をすれば、完璧主義者だ。
家の壁には母が決めたルールが張ってあり、それを一つでも守らないと母の機嫌は最悪になった。二つ破ると暴言が飛び、三つめ以降は手が出るのだ。そんな時に助けてくれたのが父、と言う訳ではない。
夫の前の母は上品で優しい女だったからだ。
父は自分に対する態度と私に対する態度とが違う事に気づかない位には仕事に忙しかった。仕事に追われる父を心配したからか、子供ながら持っていた男としてのプライドかは、私自身にも今となってはもう解らないが、私が母の事を父に相談する事はなかった。
母が私に向ける目は常に厳しく、夏の太陽のようで、そこにいるだけで心身を疲労させる。そんな母が私について知らない事は一つだけ。
ストレスの所為か私は不眠症になっていた。
そして父は、母が知らない私の病気と、それを母が知らないと言う事を、知っていた。
玄関の扉の開閉音がして母が出迎えに行く足音を聞く。上機嫌な母の異様に高い声が耳を突き、その合間合間に聞こえてくる父の低音だけを拾おうと、私はいつも努めていた。そうしている内に眠れる事もあったからだ。が、そんな事は稀で、母が寝室に向かう足音を聞いた時には、殆ど反射的に体を起こしてしまっていた。
私はトイレに行くフリをして部屋を抜け出し、心配して様子を見に来てくれた父に「眠れない」と訴えた。
「じゃあ空でも見ようか」と父が言い出したのは、今でもよく覚えている、十五夜だった。
少し熱いくらいの父の体温と、少しだけ石鹸の匂いが混じっている体臭も、目を閉じれば今まさに包まれているかのように、はっきりと覚えている。
この一件で、幼い私は仕事で家にいる時間の少ない父の事が、大好きになったのだ。
大好き、は、二人で見上げた夜空の分だけ形を変えていった。
もともと私は「その気」があったのだ。幼稚園の頃に好きになった相手が同性だったのだ。母の完璧主義に暴力性が加わったのは、私が「普通」ではなかったからかも知れない。
私は父を愛していた――。
ファザコン男子高校生の話。 優希 @L-Yuki
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