5

 深い紺の空は無数に散らばった白い光に埋め尽くされ、微かに点滅して地上を仄かに照らしてる。月の無い、新月の星空。


 それでも月はそこにある。

 父が、そこにいる。


「佐藤……、佐藤……」

 小声で呼ぶ声に顔を向けると、私を呼んでいた新田はぎょっとした顔になった。その顔はまた、すぐに破顔に代わる。


「黙ってるからどうしたのかと思えば。佐藤は静かに感動するタイプだったか」

「……うるさい」

 私は新田が驚いた原因――感動していると勘違いした原因で濡れている頬を乱暴に拭った。血液を濾過ろかして作られた筈の涙は、粗塩でも混ざってしまったみたいに痛かった。


 満天の星空は時々流れてくる薄い雲の影に流されているように見えた。その影が人工物ではない、神が作った奇跡だと語るようで、しかし、星とは宇宙ゴミだ。月が光るように、宇宙に漂う役に立たない大地の欠片、役目を終えた人工物たる衛星が太陽の光を受けて、あるいは自身で燃え尽きて、輝いて見えるだけの物。


 父がそうだったように――。


「綺麗だよな」

 隣で、新田が、呟いた。

 黙ってくれと言いかけた私は言葉を飲むように頷いていた。そしてそっと、父の時のように、新田の横顔を盗み見た。


 情けなく開いた口は闇に溶けてハッキリとは見えず、顎のラインも闇にぼかされていた。その中でただ、星空を反映したかのような眼球だけがキラキラと存在感を放っている。

 父とはまるで違う顔。そこに父を見出したのは私の感傷だろう。何より、新田は私の視線などには気付きもしない。


 私は星空に目を投げ、見つかる筈のない新月を探した。

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