「ニーナは一緒にいる」

「今行くから、場所を教えて」


岳ちゃんは助けようとしてくれるけどさ、まだ戒厳令中じゃん? 岳ちゃんも師匠もバイクとか免許とかねーじゃん。かといってさ、大人がいたらまずいじゃん。警察から逃げてるんだから。

「場所は知らせるけど、

 ストリートチルドレンが警察に捕まりたくないって言ってる。

 ニーナだけ警察んとこ行けって言ってんだけど、

 ニーナ、ゆーこと聞いてくんねー」

日本語で話してもニュアンスで内容が分かったみたいで、ニーナがクスっと笑いを漏らす。

電話の後、オレは位置情報を岳ちゃんと師匠に送った。  


……。

ついでに送っといてやるか。心配してんだもんな。

微かに漏れる光のところにスマホを向け、写真撮影。「一応無事」と母に送っておいた。


オレが電話をしている間、ニーナはナイジェルに連絡していた。電話を切ると明るい声で何やらグツに話していた。

「どーした?」


「ナイジェルがね、ポイの怪我、手当できるかもしんない」


「拳銃で撃たれたのに?」

「ナイジェル、前に銃で撃たれた鹿を助けたことがあるの。

 その時は弾丸がお尻の中で止まってて大変だったけど、

 貫通してるならできるかもって」

おい、ふざけるな。

「あのさ、足だそ。歩けなくなったらどーすんだよ」

「骨のとこから外れてれば大丈夫って。傷跡は残ると思うけど」

「闇医者っていねーの?」

オレに答えたのはグツだった。


「オレたちを診るなんて、獣医だって嫌がる。

 警察に捕まれば手当てしてくれるって言ってくれたけどさ、

 オレにはそうは思えねーよ」

「怪我した子供をほっとくわけねーじゃん」

オレはそう言ったけどさ、ニーナは黙って首を横に振った。


「ごめんなさい。撃ったのは私なの」


ニーナの告白に、グツは「知ってる。見てたヤツがいた。正当防衛だったんだろ?」って穏やかに答えた。

そんなことをしている間、ストリートチルドレンは、岩壁を登ろうとしたり、台になる石を転がして来たり、火山灰を運んで足場になる山を作ったりしていた。


ガツッ

ガツッ


何かを光が差す部分に投げつけている。

No――――!

拳銃投げてるよ。こいつら。暴発したらどうするんだよ。

「弾は入ってないよ」

「大丈夫、大丈夫」

「入ってねーの?」

「銃を売るって言ったヤツらや銃で脅すって言ったヤツらにあげた」


「じゃ、ポイの銃も弾はなかったの?!」


驚いたのはニーナ。だよな。加害者だもんな。

「あの時は分からなかった。ニーナ、オレを助けてくれてありがと」

この言葉は少しでもニーナの心を軽くできんのかな。

はー。あの穴を大きくか。気が遠くなるよーな作業じゃん。車なし、免許なしの岳ちゃん、師匠はアテにならねーし。劉ってなに気にすっげーデキるヤツだったんだな。

「劉が警察がら解放されれば、きっと助けに来てくれる。だから、待とう」

グツは劉のことを知っていた。他のみんなも。


実は疲れていたことに気づいたのか、きっと助かるって言葉で気が緩んだのか、みんなは持っていたものを食べたり眠ったりし始めた。ニーナやオレにも食べ物を分けてくれた。

そーいえば。


「みんなは爆撃予告のこと知ってた?」


訊いてみた。

「爆撃?」

グツは知らなかった。たぶん、タブソンショッピングセンターの溜まり場からここに連れてこられたのは爆撃予告の前だ。警察やソイル軍が街に出て来たら連れ出せない。

「グツ、タブソンショッピングセンターは3時に爆撃される」

「ええ!」

「ボーダー・ナイツって組織に」

「オレら、そいつらにここへ連れてこられた」

「ボーダー・ナイツに?」

「ストリートチルドレンだったヤツで、

 18歳になったとき、ボーダー・ナイツになったヤツがいて。

 そいつがちょくちょく、オレらのとこに誘いに来ててさ。オレじゃないけど。

 食いっぱぐれないって」

なんと、ボーダー・ナイツはスカウト制なのか。で、志で結束してるわけじゃねーのか。


「だったらさ、そいつが、お前らのこと助けたかったのかもな」


「そうだな。まあ、やり方がちょっと」

確かに。ライトブルーソルジャー狩りさせるんだもなー。でもさ、洞窟に連れてきた後、見張ってなかった。だから逃げるのも自由で。甘い。ま、拳銃渡すなんてことしたんだけどさ。

「なあ、グツはさ、なんで英語喋れるの? もとはソイル国のどっかに住んでた?」

ちょっとした興味。

「アイツに教えてもらった」

グツがアイツというのは、片言の英語を話す子。いやいやいや。誰が聞いたって、グツの方が流暢で格段に巧いじゃん。

「グツはソイル人相手にものを売ろうとして、英語が話せるようになったんだって」

ニーナが別の子の説明を通訳してくれた。英語を話せなくても、聞き取れるって子はぽつぽつといるらしい。


「へー。じゃ、イーストソイル国に住んでたんだ?」

「うん。親父が人を殺して捕まって、母親が自殺した。

 九歳のころ。

 村にいるのが嫌で、同じ村の3つ上の悪さばっかしてたヤツと一緒に出てきた」

うっわー。さらっとゲロってるけど重すぎ。

「そっか」

「親父は警察が捕まえに来たときは、もう気が狂ってて。

 その瞬間から周り中の人から避けられてさ。

 オレと話してくれるのなんて一緒に村を出てきたヤツだけしかいなくて。

 そいつはさ、より悪いことをするヤツをリスペクトするって変なヤツで、

 オレのこと尊敬の意味でグツって呼んでたんだ。やめてくれって言ったんだけど」

グツ、笑ってるし。オレ、泣きそう。

「そいつはどうしてんの?」

「エイズんなって、オレらに移るといけないからって、どっか行った」

「そっか。聞いてごめん」

「いや。オレがしゃべったんだし」


「グツじゃなくって、本当の名前な?」

「ロジャー」

「いい名前じゃん。みんなにロジャーって呼んでもらえよ。

 ポイにもカッコいい名前つけてやれよ」

「イーサンってつけたんだよ。

 なのに、みんながゴミ捨て場から見つかった子、ゴミの子って、

 ポイ、ポイって呼ぶから、ポイんなって」

そんな話をしていると、誰かが「しっ」って言った。


「なんか聞こえる!」

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