③
「道?」
「行こう」
グツが言った。それから、グツは弱っているポイを背中におんぶした。
身軽な先頭の子はどんどん進んでいく。
5分くらい進んだ時「道」と言っていたものが現れた。幅が3メートルくらい。そこに降り立つと、それは両方向に果てしなく続いているようだった。
あれ? オレ、これを見たことがある。足元には灰色の細かい土、じゃなくて火山灰。
「これ、この間発見した遺跡に繋がってる。たぶん」
「えっ」
オレの言葉にニーナが驚いた。
「オレ、初めてエバンと劉に案内されたとき、この道ってゆーか堀ってゆーか、これに落ちたんだよ」
師匠が言ってたっけ。古代人はカンデラバースニウムから水を得て灌漑設備を作っていたって。この道は灌漑設備、きっと水路だ。
「じゃ、これを辿って遺跡に行けるんだね」
ニーナは若干嬉しそうに言ったが、どっちが遺跡に繋がっているかなんて分からない。
オレはスマホでコンパスを表示させた。確か、カンデラバースニウムの発掘場所は、遺跡よりもやや北東にあった。だから南西に行けばいい。確かそんなに離れていないはず。
が、南西方向に行ったら、体感5分歩いたところで、行き止まりだった。
暗闇の中、一瞬見えた可能性の光が消えた。
足が火山灰に埋まる。体力を消耗する。
ふとポイを見ると目が閉じている。
!
まさか。
恐くなって、オレはポイのところに駆け寄った。
「気を失ってる。きっと貧血」
グツがオレを安心させた。
でも、安心してなんていられない。このままポイが出血多量で命を落としたら……。その想像に背筋を冷たいものが走った。そうしたら、直接ではなくても、ニーナがポイの命を奪ったことになる。
そんなことさせてたまるか!
「グツ、交代」
オレはリュックをニーナに渡し、ポイをおんぶした。小さな体は温かくて、確かに呼吸している。よかった。
「ポイ、絶対助けるからな」
返事をしないポイに語りかける。ってか、自分に言い聞かせた。
ストリートチルドレンは逞しくて、水路を反対方向に歩き始めていた。心身共にタフ。しゃべったり笑ったり。ニーナはポルトガル語で遺跡について話し、ときどきオレに通訳してくれた。
ぶぶぶぶ
そのとき、オレのスマホが着信を告げた。オレはポイをおんぶしていたから、ニーナに操作してもらって耳にあてがってもらう。
「はい」
『アホユウ、大丈夫だった?』
ババア、信じられなねータイミングで電話かけてくるな。
「大丈夫じゃない」
『あと3時間くらいで攻撃されるんでしょ?
お父さんと2人で国境まで来たのに、お父さん、ソイル国に入れなくって』
ん? なんで親父だけが?
「お母さんは入れたの?」
『ダメっていわれたから、ちょっと離れた所から勝手に入っちゃった♪』
入っちゃった♪じゃねーよ。
「で、お父さんは」
『役人と喋ってたから置いてきちゃった。ねえ、アホユウは今、どこにいるの?』
すっげー気楽だよな。
「洞窟ん中。警察から逃げてる」
『ちょっと、何やってくれたの!』
「いろいろ」
『今行くから、場所教えなさい』
「あー、ちょっとムリじゃね? 車ないっしょ」
『そんなん、どうにでもするから。ちょっと、どこなの? ねえ』
あーうるさ。
プッ
オレは頬でスマホの電話を強制終了。
「ニーナ、電源切っといて」
「高橋、お母さん、心配してるんでしょ?」
ニーナの声は疲れて始めていた。
「詳しく話せねーじゃん」
暗闇の中を歩いていて、オレなんて精神的にキテるってのに。ストリートチルドレンってさ、もっとキツイこといっぱいあったんかな。こいつらぜんぜん諦めてねーし。参ってねーし。
「グツー」
12歳くらいの子が反対方向の先の方を指差した。懐中電灯を点けているから気づかなかった。薄らと明るいかもしれない。ほんの微かに。
グツの指示で懐中電灯を一斉に消してみた。やっぱり。
僅かな明るさにまた希望の光が差す。オレたちは再び歩き続けた。どれくらい遠いのか、どれくらい近いのかも分からないのに。
すぐだった。たぶん1キロも歩いていない。
ほんのり明るかった場所は岩壁から点々と光がもれていた。光が漏れているのは高さ2.5メートルくらいの部分。なんて微妙な高さ。その向こうは外なんだ。
つるはし、持ってくればよかった。ごろごろしてたよな。
とりあえず、そっとポイを下ろして横たわらせる。頼む。頑張ってくれ。
「ニーナ、やっぱさ、ニーナは戻って。
もうだいぶ経ってるだろうから、穴から出るところは見られないと思う。
もし誰もいなくても、電話して迎えに来てもらえばいい」
「みんなは?」
「オレは、この光んとこからなんとか出る」
グツは点々と光が差し込む岩肌を指差した。出られないかもしれないのに。
「じゃ私もそうする」
ニーナ、強情。
オレは再びスマホの電源を入れた。岳ちゃんに電話して、今の自分の状況を伝えた。岳ちゃんと師匠はオレに何度も電話したが、電波が届かなかっらしい。母が電話をしてきたのは、本当に絶妙だったわけだ。
岳ちゃんの報告では、最初に保護されたのは莉那ちゃん。日本大使館付近で車から降ろされたらしく、日本大使館に助けを求めた。
次に保護されたのはハナ。山の中を歩いていたところを警察に見つけてもらった。
劉は人質として銃を突き付けられ、交渉に時間がかかったが解放された。車で逃げた一味は、イーストソイル国の道路で捕まった。劉は、犯人の顔の確認やらなんやらで、今も警察にいるらしい。
オレは三十二人のストリートチルドレンが三つに分かれて、そのうちの一チームと一緒に洞窟にいること、一人が怪我をして重傷ってことを伝えた。
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