拳銃を構えながら、そいつはオレ達の前に現れた。身長は180のオレより少し低いくらい。痩せて、暗闇の中でもぎらぎらした目が異様だった。拳銃をこっちに向けているのに、なぜか、こいつは絶対オレたちを撃たないと思った。それは、ポイを拾ったのがこいつで、ポイがこんなに小さいのに、こいつに迷わずついて行くって知ったからかもしれない。


ニーナがグツにポルトガル語で話かけると、英語も分かると言った。


ファンファンファンファン

ファンファンファンファン


パトカーのサイレンが聞こえてきた。

「捕まったらまずいんだろ?」

オレの言葉に頷くと、グツはポイをおんぶした。そして、こっちだと洞窟の奥へ向かっていく。洞窟内は入り組んでいた。


ようやく細い通路の奥に到着すると、グツは積み上げてあった箱の下から二つをどけた。そこには、直径一メートルほどの穴が空いていた。そして、そこから中に入った。ニーナとオレが穴から入ると、中から器用に箱を戻しているようだった。

後で訊いた話だが、穴はポイが見つけ、グツが周りの壁に箱を打ち付けてカモフラージュし、一番下の箱を出入口になるようにしたらしい。

穴の向こうは自然の洞窟だった。それはずっとどこかまで続いていそう。そこにはポイとグツを含めて、ストリートチルドレンが十一名。懐中電灯があって、明るかった。懐中電灯はライトブルーソルジャー狩りの依頼主から一人一個支給されたらしい。ご丁寧に食料も支給されていた。


ポイがオレに会ってしまったのは、用を足しに行ったからだった。ソルジャーが来るのは月曜の朝だから、今夜は遊んでいてもいいと言われていたとのこと。だから安心してポイは外に出た。そして帰りにオレに会ってしまった。


グツは流暢に英語を話せた。もう一人、なんとなく話せるって子がいた。

「グツ、どうしてここに残った?」

「カンデラバースニウムが発見されたって道で拾った新聞に書いてあった。

 すっげー高くて、金(きん)の2倍って。

 だから、それを掘って、朝までに逃げるつもりだった」

字読めるストリートチルドレン、いるじゃん。


「じゃ、この隠し穴は?」

「ダイヤを発掘する工夫は身体検査をされるってきいたことがあったから、

 とりあえず隠し場所にしようと思って」

「カンデラバースニウムは、原石を特殊な状態で高熱処理しないと出てこない。

 しかも、なんで高いかって、原石に対して、できるのはほんのちょっと。

 だから、原石を盗んでもダイヤモンドみたいに売れない」

「この鉱山の中を見て、カンデラバースニウムが何かも分かんないのに、

 明日の朝までに掘るなんてムリって分かったとこだったんだ」

「金(かね)がほしい?」

「ほしい」


「ライトブルーソルジャーを殺しても?」


そう訊くと、グツは首を横に振った。

そばにいたストリートチルドレンの1人が口を開く。片言の英語を話す子。

「グツは人を殺したらダメ、言った。あいつら大人。だから、オレらより簡単。

 ソルジャーを殺すこと。なのに頼んだ。それくらいダメ。

 気が狂う。知ってる人が離れる」

グツは懐中電灯の灯りの中でじっとオレを見つめる。白目と黒目のコントラストがこの世の何かを見抜いているみたいだ。


誰かがポイに声をかける。

「痛いよな、ポイ」

「ポイだけでも、警察んとこ行って手当してもらった方がいーんじゃね?」

撃たれたんだ。さっきほどじゃなくても、まだ血は出ている。応急処置のニーナのTシャツは真っ赤。


「嫌だ」


そう言ったのはポイだった。

「オレ、みんなと一緒がいい。

 オレはまだ捕まったことないけど、

 棒でなぐられるのもイーストソイル国に送られてみんなに会えなくなるのも嫌だ。

 オレ、みんながいないとこなんて、生きてられない」

なんかさ、安っぽい恋愛ドラマの「あなたがいなかったら生きていけない」ってあるじゃん。あれとは違ってさ、まだ小さいポイは、みんながいなかったら本当に生きていけない。知らない国で路上に放り出されたら、その日から食べるものも寝る場所もない。


ばたばたと足音が聞こえる。耳をすますと洞窟の中で反響する大人の話声が聞こえてきた。

英語。

「一応確認か。誰もいないよな」

「日曜日だから」

「おい、でも、こんなとこに子供のサンダルがあるぞ。壊れてる」

「誰かが落としたんだろ」

「おい、来てみろ、血だ!」

「うわっ。ゲロ踏んじまった」

「血の痕を追えっ」

まずいじゃん。警察だよな。さっき、ファンファンってサイレンの音してたもんな。

オレはニーナの顔を見た。ニーナだけでも、警察に保護してもらった方が安全だ。だけど、ニーナがここから出ていけば、ストリートチルドレンがここに隠れていることがばれてしまう。


ストリートチルドレンの誰かが洞窟の奥を指差しながら言った。ポルトガル語をニーナがオレに通訳。

「こっち、ずーっと続いてるんだって。なんか道みたいなのがあって、ずーっと」

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