⑤
「正確な場所って分かる?」
『LINEで送られてきた位置情報を転送する』
直後に送られた位置情報は、カンデラバースニウム採掘現場に一致した。
「劉、バイク貸して。オレ、行くから」
「オレも行く。高橋、運転できないだろ?」
「警察や軍には?」
「ハナ達のことはナイジェルが連絡した」
「ストリートチルドレンのことは?」
「そんなん警察や軍に知らせたら、拳銃持ってるあいつらなんて一瞬で殺される」
「子供なのに」
「人間と思われてたら、あんなままで放っておくわけねーじゃん」
「だよな」
オレはニーナに今の状況をLINEで送った。
たぶん莉那とハナが連れて行かれた場所も、ストリートチルドレンが連れて行かれた場所も同じだろう。カンデラバースニウム発掘現場。恐らくボーダー・ナイツ。
スーパーカブで劉の背中につかまって、風と一緒に流れてくる声を聞く。
「あいつらさ、悪いことすんの悪いって思ってなくて。すっげー無垢で」
「悪いって思わなきゃダメじゃん?」
「ちげーんだよ。オレらと全く違うモラルん中で生きてんの」
「ふーん」
「だからさ、1000カインよりもさ。
ジュースやバーガーくれた人のために、
ライトブルーソルジャー殺すことなんてマラリアの蚊ぁ殺すのと同じかも」
「蚊って、そんな」
「違うかもしんないし、分かんねー。でも、食いもんくれる人は基本いー人認定」
単純明快。
「劉はさ、どーやって知り合った?」
「大人に殴られて怪我したヤツ手当した」
「そっか」
「打撲は大したことなかったけど、その時転んでできた傷が膿んで。熱出てて」
「医者に連れてった?」
「ストリートチルドレンなんて医者が診てくれるわけねーじゃん。
処方箋を偽造した」
劉も悪いこと悪いって思わないタイプかも。警察に知らせるって市民の義務を怠ってるしさ、厳戒令の街に平気で出てるし、ヘルメット未着用も気にしない。
こいつ、優等生のエバンと真逆じゃん。オレ、こーゆーヤツがいるってこと知っただけでもここへ来た意味あったかも。
「オレ、気になってんだよ。
爆破予告じゃなくてさ、爆撃だったじゃん、高橋、どう思う?」
「それが?」
「爆撃って戦車とか戦闘機でやるもんじゃん。だから、どーやってやるんだろって」
「ボーダー・ナイツが戦闘機持ってるってこと?」
「いや、持ってたとしてもさ、道路走ってる時点でバレるじゃん。
戒厳令敷かれてっから」
「そっか」
「じゃ空から」
「レーダーもあるし、もっと目立つ」
「そっか。分かんねー」
土埃の中をスーパーカブでひた走る。
幹線道路は見晴らしが良すぎて見つかる可能性が高いから、凸凹の怪しい裏通り。ケツが痛い。
オレは、ニーナがいらんことをしないように祈った。頼むから、そのまま荷物の中にでも隠れててくれ。頼む。
林の中に入り、スーパーカブを止めた。そして草むらに隠す。幸い草っつっても、1メートルくらい平気であるから、オレらが見つけることすらできねーくらい。
滝を見に行くときは、草原を歩いて山まで行った。カンデラバースニウム発掘所は、発見から既に2週間以上経っているせいか、車の行き来による道ができていた。目的地が分かり易い。しかし、見つかり易いということになる。
虫や蛇が真剣に怖かったが、木々の間を進んだ。長袖着てくればよかった。しかもお気に入りのライトブルーのTシャツ(泣)。ソイル国に来てから常備している虫除けスプレーをもう1回シューシューしようとしたら、人工的な匂いが残るからやめた方がいいと劉に止められた(泣)。日本と違って、蚊だってマラリアかもって危険があるしさ、蟻だって毒あんだよっ。
車が通ることによって自然にできた道の脇を進んでいくと、トラック2台、ジープ5台が止まっている。その向こうに小屋がある。カンデラバースニウム発掘のために設営されたものだろう。発掘の穴は小屋の奥に見えている。
車の運転席に人はいない。
トラックの陰に隠れて小屋に近づいて行く。更にジープの陰に移って身を小さくした。小屋までの距離、10メートルちょい。
暑いからか小屋の窓は開け放たれていて、そこから笑い声や話声が聞こえる。
え? ライトブルーソルジャー?
ちらっと中で立って歩く数名の姿が見えた。ライトブルーの軍服を着ている。
ボーダー・ナイツじゃねーの? いや、ニュータブソンショッピングセンターにあった紙はポルトガル語だった。ってことは、今見えたのは狙われているライトブルーソルジャー?
????
とりあえずカッコよく助けに来たことをアピールしたくてニーナにLINEを送ってみた。ものすごく心配しているくせに、こんな状況で下心が出てくるところがオレらしい。
既読にならねーじゃん。しかも、さっき送ったのも既読になってねーし。
電話も応答なし。登録してある有料の通信で電話をかけてみると、電波が届かないか電源が切られているというメッセージが流れた。
サーっと血の気が引いた。下心は吹っ飛んだ。
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