「正確な場所って分かる?」

『LINEで送られてきた位置情報を転送する』

直後に送られた位置情報は、カンデラバースニウム採掘現場に一致した。


「劉、バイク貸して。オレ、行くから」

「オレも行く。高橋、運転できないだろ?」

「警察や軍には?」

「ハナ達のことはナイジェルが連絡した」

「ストリートチルドレンのことは?」

「そんなん警察や軍に知らせたら、拳銃持ってるあいつらなんて一瞬で殺される」

「子供なのに」

「人間と思われてたら、あんなままで放っておくわけねーじゃん」

「だよな」


オレはニーナに今の状況をLINEで送った。

たぶん莉那とハナが連れて行かれた場所も、ストリートチルドレンが連れて行かれた場所も同じだろう。カンデラバースニウム発掘現場。恐らくボーダー・ナイツ。


スーパーカブで劉の背中につかまって、風と一緒に流れてくる声を聞く。


「あいつらさ、悪いことすんの悪いって思ってなくて。すっげー無垢で」


「悪いって思わなきゃダメじゃん?」


「ちげーんだよ。オレらと全く違うモラルん中で生きてんの」


「ふーん」


「だからさ、1000カインよりもさ。

 ジュースやバーガーくれた人のために、

 ライトブルーソルジャー殺すことなんてマラリアの蚊ぁ殺すのと同じかも」


「蚊って、そんな」

「違うかもしんないし、分かんねー。でも、食いもんくれる人は基本いー人認定」

 単純明快。

「劉はさ、どーやって知り合った?」

「大人に殴られて怪我したヤツ手当した」

「そっか」

「打撲は大したことなかったけど、その時転んでできた傷が膿んで。熱出てて」

「医者に連れてった?」

「ストリートチルドレンなんて医者が診てくれるわけねーじゃん。

 処方箋を偽造した」

劉も悪いこと悪いって思わないタイプかも。警察に知らせるって市民の義務を怠ってるしさ、厳戒令の街に平気で出てるし、ヘルメット未着用も気にしない。

こいつ、優等生のエバンと真逆じゃん。オレ、こーゆーヤツがいるってこと知っただけでもここへ来た意味あったかも。


「オレ、気になってんだよ。

 爆破予告じゃなくてさ、爆撃だったじゃん、高橋、どう思う?」

「それが?」

「爆撃って戦車とか戦闘機でやるもんじゃん。だから、どーやってやるんだろって」

「ボーダー・ナイツが戦闘機持ってるってこと?」

「いや、持ってたとしてもさ、道路走ってる時点でバレるじゃん。

 戒厳令敷かれてっから」

「そっか」

「じゃ空から」

「レーダーもあるし、もっと目立つ」

「そっか。分かんねー」

土埃の中をスーパーカブでひた走る。

幹線道路は見晴らしが良すぎて見つかる可能性が高いから、凸凹の怪しい裏通り。ケツが痛い。

オレは、ニーナがいらんことをしないように祈った。頼むから、そのまま荷物の中にでも隠れててくれ。頼む。


林の中に入り、スーパーカブを止めた。そして草むらに隠す。幸い草っつっても、1メートルくらい平気であるから、オレらが見つけることすらできねーくらい。

滝を見に行くときは、草原を歩いて山まで行った。カンデラバースニウム発掘所は、発見から既に2週間以上経っているせいか、車の行き来による道ができていた。目的地が分かり易い。しかし、見つかり易いということになる。

虫や蛇が真剣に怖かったが、木々の間を進んだ。長袖着てくればよかった。しかもお気に入りのライトブルーのTシャツ(泣)。ソイル国に来てから常備している虫除けスプレーをもう1回シューシューしようとしたら、人工的な匂いが残るからやめた方がいいと劉に止められた(泣)。日本と違って、蚊だってマラリアかもって危険があるしさ、蟻だって毒あんだよっ。


車が通ることによって自然にできた道の脇を進んでいくと、トラック2台、ジープ5台が止まっている。その向こうに小屋がある。カンデラバースニウム発掘のために設営されたものだろう。発掘の穴は小屋の奥に見えている。

車の運転席に人はいない。

トラックの陰に隠れて小屋に近づいて行く。更にジープの陰に移って身を小さくした。小屋までの距離、10メートルちょい。

暑いからか小屋の窓は開け放たれていて、そこから笑い声や話声が聞こえる。


え? ライトブルーソルジャー?

ちらっと中で立って歩く数名の姿が見えた。ライトブルーの軍服を着ている。

ボーダー・ナイツじゃねーの? いや、ニュータブソンショッピングセンターにあった紙はポルトガル語だった。ってことは、今見えたのは狙われているライトブルーソルジャー?

????


とりあえずカッコよく助けに来たことをアピールしたくてニーナにLINEを送ってみた。ものすごく心配しているくせに、こんな状況で下心が出てくるところがオレらしい。

既読にならねーじゃん。しかも、さっき送ったのも既読になってねーし。

電話も応答なし。登録してある有料の通信で電話をかけてみると、電波が届かないか電源が切られているというメッセージが流れた。

サーっと血の気が引いた。下心は吹っ飛んだ。

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