「ちょっと待った。劉、最初にタブソンショッピングセンターには

 人がいないことになっているって言ってなかった?」


「うん」

「ってことは、実際には誰かいる? 避難命令は?」

劉の顔が凍り付いた。

「どーした?」


「タブソンショッピングセンターには、イーストソイル国から流れてきた、

 ストリートチルドレンが住んでる」


「おい、劉、なんでそんなこと知ってるんだよ」

驚いたエバンが劉の腕を掴んだ。

「電気や水が止められててさ。水道の元栓を教えてやった。

 それと、その、、、

 電気を使えるように送電線から電気をパクれるようにしてきた。ごめん」

劉は話しながら時計に目をやった。どの施設からかは分からないが、あと5時間で爆撃が始まる。

「劉! タブソンショッピングセンターには避難命令は出てないんだろ? 

 警察か消防署に連絡して、避難命令を出してもらおう」

オレはそう言ってポケットからスマホを取り出した。


「ムリだ、高橋。ストリートチルドレンなんて誰も助けない。

 みつかったら棒で殴られてイーストソイルに送られる。

 送られたって、またイーストソイルで路上に放り出されるだけなんだよ」


「じゃあ、ストリートチルドレンに連絡しよう。知り合いなんだろ?」

オレは連絡してくれと劉の目の前に自分のスマホを突き出す。劉は心底呆れたように溜息を吐いた。


「高橋、ストリートチルドレンが携帯を契約できるわけねーじゃん」


まったくだ。こんなことにも考えが及ばないなんて。恥ずかしすぎる。

街には厳戒令が敷かれた。バスは今乗っている乗客を降ろしたら走らない。

オレの頭の中には、バス乗り場で「ニーハオ」と声をかけてきた男の子が浮かんだ。まだ七、八歳で。他にもいた。パンをバッグから取り出した時に六人に増えてたんだ。浅黒い肌に真っ白の白目、黒い瞳とのコントラストが眩しいくらい「生きたい」って主張してた。あいつら、生きてるんだ。人にものもらったって、拾ったって、ひょっとしたら奪ったって、それでも生きてるんだ。

「歩く。まだ間に合う」

「おい、高橋」

「捕まるぞ」

「やめとけよ」

エバンも岳ちゃんも師匠もオレを止めた。だけど劉は違った。


「高橋、行くぞ!」

そう言った劉は、もう走ってドアを開けていた。


 ブロロロロロロロローーーー


なんと、劉はバイクでエバンの家まで来ていた。炎天下を走る覚悟だったから拍子抜け。ま、よかったんだけどさ。ホンダのスーパーカブ。2ケツ。劉はヘルメットを被ってたけど、オレはなし。

「ヘルメットなしって違反じゃねーの?」

「何言ってんの。戒厳令の街を出歩く方が違反」

「あ。そっか」

劉はライトブルーの軍服を着たソルジャーが少ない通りを選んで走った。ときどきジープが遠くに見えて迂回した。

げっ。ぺっ。道路が舗装されてないから、土埃がひでー。口ん中に入ってくるじゃん。


劉の背中で、お気に入りのライトブルーのTシャツがバタバタバタバタと細かく風に震える音を聞いた。

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