③
「ちょっと待った。劉、最初にタブソンショッピングセンターには
人がいないことになっているって言ってなかった?」
「うん」
「ってことは、実際には誰かいる? 避難命令は?」
劉の顔が凍り付いた。
「どーした?」
「タブソンショッピングセンターには、イーストソイル国から流れてきた、
ストリートチルドレンが住んでる」
「おい、劉、なんでそんなこと知ってるんだよ」
驚いたエバンが劉の腕を掴んだ。
「電気や水が止められててさ。水道の元栓を教えてやった。
それと、その、、、
電気を使えるように送電線から電気をパクれるようにしてきた。ごめん」
劉は話しながら時計に目をやった。どの施設からかは分からないが、あと5時間で爆撃が始まる。
「劉! タブソンショッピングセンターには避難命令は出てないんだろ?
警察か消防署に連絡して、避難命令を出してもらおう」
オレはそう言ってポケットからスマホを取り出した。
「ムリだ、高橋。ストリートチルドレンなんて誰も助けない。
みつかったら棒で殴られてイーストソイルに送られる。
送られたって、またイーストソイルで路上に放り出されるだけなんだよ」
「じゃあ、ストリートチルドレンに連絡しよう。知り合いなんだろ?」
オレは連絡してくれと劉の目の前に自分のスマホを突き出す。劉は心底呆れたように溜息を吐いた。
「高橋、ストリートチルドレンが携帯を契約できるわけねーじゃん」
まったくだ。こんなことにも考えが及ばないなんて。恥ずかしすぎる。
街には厳戒令が敷かれた。バスは今乗っている乗客を降ろしたら走らない。
オレの頭の中には、バス乗り場で「ニーハオ」と声をかけてきた男の子が浮かんだ。まだ七、八歳で。他にもいた。パンをバッグから取り出した時に六人に増えてたんだ。浅黒い肌に真っ白の白目、黒い瞳とのコントラストが眩しいくらい「生きたい」って主張してた。あいつら、生きてるんだ。人にものもらったって、拾ったって、ひょっとしたら奪ったって、それでも生きてるんだ。
「歩く。まだ間に合う」
「おい、高橋」
「捕まるぞ」
「やめとけよ」
エバンも岳ちゃんも師匠もオレを止めた。だけど劉は違った。
「高橋、行くぞ!」
そう言った劉は、もう走ってドアを開けていた。
ブロロロロロロロローーーー
なんと、劉はバイクでエバンの家まで来ていた。炎天下を走る覚悟だったから拍子抜け。ま、よかったんだけどさ。ホンダのスーパーカブ。2ケツ。劉はヘルメットを被ってたけど、オレはなし。
「ヘルメットなしって違反じゃねーの?」
「何言ってんの。戒厳令の街を出歩く方が違反」
「あ。そっか」
劉はライトブルーの軍服を着たソルジャーが少ない通りを選んで走った。ときどきジープが遠くに見えて迂回した。
げっ。ぺっ。道路が舗装されてないから、土埃がひでー。口ん中に入ってくるじゃん。
劉の背中で、お気に入りのライトブルーのTシャツがバタバタバタバタと細かく風に震える音を聞いた。
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