日曜日、オレたちはエバンの家に集まっていた。エバン、劉、岳ちゃん、師匠、オレ。

こんなに暑い日は涼しい家の中でゆっくりDVD鑑賞をしようって。ダークエンジェルをチョイス。理由は、ヒロインがニーナに似てるから。そしてヒーローが師匠そっくりだから。


オレはエバンのベッドに師匠と一緒に寝転んでた。お気に入りのライトブルーのTシャツが皺にならないようにして。だってさ、ドラマとはいえ、ニーナ似の子に会えるんだから。


突然、バタバタと階段を上がってくる足音が聞こえ、マミーがどんどんとドアをノックする。

「テレビを観て!」

オレたちがばたばたとリビングになだれ込むと、ダディがこれ以上ないくらい怖い顔をしていた。


テレビ画面では、ボーダー・ナイツと名乗る集団が犯行予告をしていた。


「本日三時より、国内の中心地にある五つの施設を爆撃する。

 我々の望みは、ソイル国が自らの過ちを認めて文字とし、

 自国の子供たちの胸に罪の意識を教育すること。

 更に、血塗られた過去を謝罪し、

 国境近辺で暮らすイーストソイル国の人々に和解金として10000カインずつ、

 更に今後、カンデラバースニウム採掘と発見された遺跡観光によって

 得られる利益の50%を支払っていくことである」


犯行声明を聞き終わったダディは、どこかへ連絡をとりながら家を出ていった。

めちゃくちゃだと思った。本当のことなんて今となっては誰にも分らない。


「なんかさ、ひでーよな。血塗られた過去って、この世代じゃねーじゃん。

 そんなこと言われたってさ。生まれるときに国選べねーじゃん」


オレはちょっと憤慨した。

でも、エバンは悲しそうだった。

「でもさ、高橋が高橋なのは、高橋が今までしてきたことがあるからだろ? 

 過去の積み重ねの上に今がある。

 国も、例え自分がしたことじゃないとしても、過去の積み重ねの上に今がある。

 ソイル国が今のソイル国であるのは、過去から繋がってる」


「過去どうこうようりさ」と劉。

「現在、ソイル国を憎んでいる大きな感情の固まりがあるってことが問題なんだって」


そんなんおかしい。どうにもできない過去の恨みじゃん。そんなものに屈するなんて。

「結局は金かよ。今後の約束のために爆撃って、なんか計画性ねーな」

師匠が毒づいた。

「5時間じゃ決められないこと要求してるってことは、もう、爆撃するってことじゃん」

岳ちゃんの言うことはもっともだ。


爆撃リストには5箇所。


タブソンショッピングセンター

オニオン公園

アドイエ銀行

ガジュマールパイプライン警備地点

セント・ピエール高校


「おい、これって」

「オレらの高校じゃん」

「なんでだよ。なんで攻撃されるんだよ」

違和感。普通、攻撃するって、軍事施設だったり、国家機関の重要な建物だったり、他には、軍事施設、宗教施設。なのに高校って変。

「これ、どーゆー基準で選んだわけ?

 ショッピングセンターは分かる。人がいっぱいいるから」

「いや、いない」

とエバンの低い声。

「え? ショッピングセンターって、

 スマホ契約しに行った帰りにマック行ったじゃん。人いっぱいいたじゃん?」

「あれは、ニュータブソンショッピングセンター」


劉は腕を組んで沈思黙考。オレは劉の意見を聞きたい。だから、劉を見つめながら待った。

3秒ほどして劉は口を開いた。


「人のいないとこを狙ってる。

 被害が少ないとこ」


「「「「えっ?」」」」


なんだって? ショッピングセンター、公園、高校、人が集う場所じゃないのか。


「まず、攻撃するって宣言すれば非難するから、人はいなくなる。

 タブソンショッピングセンターは老朽化して、全店舗が

 ニュータブソンショッピングセンターに移ったから人はいないことになってる。

 オニオン公園はただ広いだけの場所で、木がほとんどない。

 民家に燃え広がることはない。

 アドイエ銀行は一般の銀行じゃなく投資銀行。

 恐らく、電子データを移せば物理的な被害は小さい。資金はかなり持ってるから、

 新しい場所で経営を始めるのは他の企業に比べれば簡単。

 ガジュマールパイプライン警備地点は、

 パイプライン自体から離れていて爆撃してもパイプラインに被害はない。

 常時二人くらいしかいない小さなとこで」


「じゃ、セント・ピエール高校は?」


「夏休み。隣接する女子寮にも人はほとんどいない」

 ああ、そうか。夏休みじゃん。

 さらに劉は付け加えた。

「インパクトがあって、実際には被害が少ないもの」


「そんな、高校だぞ?!」


岳ちゃんの口調には怒気が混じる。もっともだ。子供の教育の場を狙うなんて。倫理的に許されないって思う。


「言いたくないけど、オレたちのセント・ピエール高校が攻撃されても、

 普通の人達はさほど同情もしないよ。

 私立で金銭的に恵まれた少しの人間しか通えないから。

 仮に校舎が壊されたって寄付金を募ればいいだけだと思われる。

 実際そうだろうし」

 

暗い顔のエバン。そういえば、学校の塀は三メート以上の高さだったし、鉄線が張りり巡っらされてたっけ。


なんか気になるんだよな。さっきの劉の言葉。

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