なんで爆撃?
①
週1本の国際便が到着した日、日本のテレビ局のレポーターがやってきた。オレたち3人はインタビューを受け、日本の友達からたくさんの連絡をもらった。サッカー部は山中湖の合宿所で、昨年会ったテニスサークルの女子大生に会えなかったらしい。ざまあ。
師匠は研究所に遺跡で拾ったものを調べていた。
「すっげー! マジすげー」
イケメンが台無しになるくらいくしゃくしゃの顔で師匠が喜んだ。
「どーしたんだよ。下仁田」
「師匠、変」
「あれ、あの塊、やっぱカンデラバースニウムだった。精錬の途中過程の」
「へー」
「そーなんだ」
「すげーだろ?」
今一つ師匠と感動を共有できない岳ちゃんとオレ。
「なあ、つまり、
あの時代の人が、カンデラバースニウムを精錬してたってことじゃん。
そんでさ、水作ってたんだ。水!
それってすげーことだと思わね? すっげー文明じゃん。
いや、ひょっとすっとさ、人が精錬してたんじゃないかもしんない。
自然偶発的な環境で。そしたらそれこそすげくね?
思い出してみろよ。
滝あったじゃん。あの滝変じゃなかった?」
変なのは師匠っす。
「は? 滝が?」
「ふつーに滝だったけど」
「あんなに大量の水があったのに、そこに流れ込むほど、
それより高い場所には山がそれほどなかった。
滝ってのはさ、水が集まって来て落ちるんだよ。なのに。
だからあれは、水がどっかから湧いてるのもあるかもしんない。
地中の奥で自然偶発的にカンデラバースニウムが精錬されてるかもって。
そう考えると、すっげー埋蔵量かも」
師匠、落ち着け。言いたいことは伝わってきたから。
「じゃさ、思ったよりも簡単にカンデラバースニウムの精錬ができるかも
ってこと?」
「かも。もう、研究所じゃ大喜び。あ、SNSで流すなよ。秘密だから」
「秘密は秘密にしとけよ。研究なんだろ?」
「こんなすげーこと、誰かに話したいじゃん」
師匠、単純。
数日後、どうも古代の人たちはカンデラバースニウムから水を得て、灌漑設備を整え、農作物に水を与えて可能性があると分かった。遺跡の中でオレが落ちた幅3メートルくらいの堀は灌漑設備だったらしい。
「カンデラバースニウムを精錬してたってこと?」
「そこはまだ分かんないって。研究中。
そんな話をしていると、LINEのソイルってグループに莉那ちゃんから連絡が入る。
『みんなでテニスしませんか? 友達にジョージを呼んでほしいって頼まれたの』
はっ。師匠ご指名ね。
「僕、テニスどころじゃねーし」
「少しくらい行ってやれよ」
優しい岳ちゃんは言ったけど、師匠はぶっちぎった。あ~あ。
オレと岳ちゃんじゃ役不足だろうけど、莉那ちゃんの顔を潰しちゃ悪いと思って、テニスコートへ行ったんだよ。そしたら、莉那ちゃんは明らかにがっかりしててさ。ソイルの女の子たちも。
なぜか劉がいて楽しそうにハナとテニスしてた。
「「「「「エバンは?」」」」」
「エバンは出かけた」
デートに。
「「「「「ええーーーー」」」」」
ここ、ソイル国の女の子ってはっきりし過ぎ。
テニスの点数のボードの前で岳ちゃんに気になっていたことを訊いた。
「岳ちゃんさー、遺跡を発見した夜に話してたとき、
警備に銃持ってた方がいいって思ってなかった?」
「うん」
「この国って、そんなに物騒? なんか慣れたら平和じゃん」
「黒い歴史の話あったじゃん。
最後の。
国境でパイプラインを警備してたライトブルーソルジャーが襲われたって話。
あれさ、普通ならパイプラインを破壊するじゃん。
なのに狙いはライトブルーソルジャーだった。
イーストソイル国には、ライトブルーソルジャーを狙ってる人がいるってこと」
「昔のことだろ?」
「石油が発見されたのもパイプラインができたのも最近」
「あ、そっか」
「ま、平和だよな。なんにもなきゃいいんだ」
岳ちゃんの心配は、的中はしなかったものの、かなり悪い形で具現化した。
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