⑥
「発掘調査はさ、2つの国や、その他の研究機関も絡んでくると思んだよね。
調査に関しては2国間で問題が起きるとは考えにくいじゃん。
起きるとすれば、その後の利害関係。
ほぼ同じ場所でカンデラバースニウムも発掘されててさ。
なんか金が絡んでて大変そ」
おいおい、師匠ってば。まるっきり傍観者発言。
「レアメタルだもんなー、金は絡むっしょ。
カンデラバースニウムを国内で精錬してさ、空輸してさ、がっぽがっぽ。
外貨獲得。遺跡で観光客が来てがっぽがっぽ」
オレもわりと無責任発言。
この国、石油にレアメタルに遺跡って、どんだけ恵まれてんだよ。
「イーストソイル国側には、近くに空港もないから、
観光地としての外貨はソイル国に入るよな。ただ、
カンデラバースニウムはどう考えてもイーストソイル国にも跨ってあるから、
イーストソイル国が精錬所や空港を建設するってのも考えられるんじゃね?
自然遺産の申請してるってことは、観光客も欲しいんだろ」
おお、劉、鋭い。
でもさ、それでいーんじゃね?
「オレさ、さっきの話聞いて、
イーストソイル国の砂漠の人らにも仕事が増えた方が、
治安が良くなるって気ぃする」
なんとなく言ってしまった。
そして、はたと気づく。ソイル国に招かれてるんだから、ソイル国の利益になるように考えるべきだったんじゃねーのって。失言かも。
でもさ、イーストソイル国の国境付近が豊かになれば、ライトブルーソルジャーも襲われないし、ストリートチルドレンもいなくなるって思うんだよね。
「100の利益を50ずつに分けるのか? 90取ることもできるのに」
おおっと、意外にも守銭奴発言はエバン。更に続けた。
「共に成長するっていうのは理想だよ。内陸国のソイルは明らかに不利だ。
街を作る、設備を作る資材の一つ一つに関税と輸送費がかかる。
それを加味した人件費はソイル国が高くなる。
外資系企業は、安上がりのイーストソイル国に流れるだろ?
そうすっと、こっち側は不利。共に成長なんて目指しても、置いて行かれる。
その分有利になって何が悪い。
見つけたのはカンデラバースニウムも遺跡もソイル国だ」
エバンは理想主義だけど計算高いのか。
ここは辺境の地。
ちなみに、資材の輸入先は主に中国。中国製品が安いからだそうな。それでも、この内陸国まで運ぶと輸送費が膨大になるらしい。
「エバン、安心しろって。空港ができるかどうかなんて分かんねー。
少なくとも、空港ができるまでは、ソイル国が有利だ。
国の中心部からすぐの場所に遺跡がある。そこにレアメタルもある」
劉は熱くなりすぎたエバンにソイル国の地図を見せた。
東側が綺麗な直線のソイル国の地図。地図にはグレートリフトバレーの高低差の色があり、見事なほど、ソイル国の首都、遺跡発見現場、カンデラバースニウム発掘場所が国の北東の端に固まっている。
国の首都が国土の端にあるのは、海の民からの物資を受け取るための拠点が街として発展したからだろう。ついでに北のノースアンド共和国の国境も近い。
「国境なんてなきゃ何の問題もないのに」
オレの何気なく放った言葉に、その場が水を打ったように静まり返った。
え? オレ、そんな変なこと言った? だってさ、全ての問題は国境のせいじゃん? 黒い歴史も今ここで悩んでることも。それに、もともとイギリスとポルトガルが定規で引いたような国境線で、とうの昔にイギリス軍もポルトガル軍もいねーのに。
「高橋、それは黒い歴史を文字にしてはいけないってのと同じくらい、
みんなが心に秘めてることかもな。
ただ、もうそれぞれの国が違う発展をして、
石油が見つかるまでは経済格差がありすぎて現実的じゃなかったんだ。政治も」
大臣の息子であるエバンは真摯に答えてくれた。
ま、オレも空気読んでなさ過ぎだった。今日見つかったものについて話してるのにさ、当面どうにもならなさそうなこと持ち出して。
「すんません。非現実的だった。悪い」
素直に自分の発言を取り消すオレ。
「世界遺産に自然遺産として申請してることはどーなの?
カンデラバースニウムを発掘するために申請を取り下げるかも
って話してたじゃん。でもさ、オレはさ、
あの、グレートリフトバレーは自然遺産に登録して観光地にしてほしい。
そしたらカンデラバースニウム発掘で荒らされねーじゃん。
それにさ、みんなにあのすっげー景色見てほしー」
山オタクの岳ちゃんは本当にグレートリフトバレーLOVE。
夜遅く、劉のお母さんが迎えに来て、劉と師匠は帰って行った。
大人たちはまだ応接間。どんな話し合いをしているんだろうか。
昼間、道のない場所を歩いて、夜は歴史や国益の話なんてして、心地よい疲労感。なんか、すっげー頭回転させた気がする。ニーナに「おやすみ」とだけメール。
シャワーを浴びて即行寝た。
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