昔々、ソイル国とイーストソイル国は1つの国だった。

1つの国というよりは、国とか国境とかの概念がなく、所々に部族が暮らしていた。ソイル国辺りに住む者は山の民と呼ばれ、イーストソイル国辺りに住む者は海の民と呼ばれた。二つの国は同じ言語を使い、同じような生活習慣と宗教を持っていた。山の民は気候に恵まれ、豊かな農作物や畜産物があり、海の民は港を利用し、貿易を生業としていた。


ある時、ヨーロッパ諸国によって、ソイル国とイーストソイル国が誕生した。ソイル国はイギリス領、イーストソイル国はポルトガル領となった。

国境は、イギリスとポルトガルの判断で経度に沿って定規で縦に引かれた。


植民地となっても辺境の地、人々の生活はあまり変わらなかった。


そして、第一の黒い歴史が始まる。

疫病が海を渡ってやってきた。死に至る病で、人々は次々に倒れていった。それは海岸部で起こり始めた。

病人は人が少ない内陸部、ソイル国の近くへ運ばれた。海岸部は人口が多く、港を機能させる必要があったからだ。イーストソイル国は標高が低く、国土の大半が砂漠かそれに準ずる気候。薬も何もなく、実質捨てられた状態の病人は、気候が温暖で、農作物が豊豊なソイル国を目指した。

イーストソイル国の人口の4分の1が減ったという恐ろしい疫病が近づき、ソイル国は、助けを求めてきた病人の入国を拒否した。

入国しようとした人間は撃ち殺された。国境近くにあった疫病村は焼き払われた。


ここで問題がある。

実は、病人を撃ち殺し、国境近くの疫病村を焼き払ったのがどこなのか、4つの説がある。


1. 現在ソイル国に伝わるもの。

 イーストソイル国が、農作物の供給源であるソイル国に疫病が広がらないように焼き払った。

2. イーストソイル国での認識。

 ソイル国の者が、自分達の国に被害が及ばないように殺して火を放った。

3. イギリス軍が辺境の地での問題を大きくしたくなかったために手を下した。

4. イギリスと問題を起したくないポルトガル軍の仕業。


自分達の国の一部を焼き払われたイーストソイル国は、1番近いソイル国の農地を焼き、家畜を殺した。被害に遭ったソイル国の村人は、イーストソイル国の国境に近い村の人を殺した。疫病は海岸部から広がっていたから、内陸部の殺された村人は健康だった。

これで終わらず、イーストソイル国から報復があり、ソイル国の村の男たちが殺され、女たちは連れ去られて売られた。


事態がここまで悪化し、イギリス軍とポルトガル軍がこれを治めた。

時は流れ、イギリス軍は統治をソイル軍に引き継いで本国に帰った。これがソイル国が軍事政権である由来だ。その後、何の問題もなくそれが続いている。イーストソイル国ではポルトガル軍が引き上げるときに貿易港の有力者に統治を任せた。そのため、軍事政権ではなく一応民主主義となった。一応というのは、議員がほぼ世襲制で真の民主主義かは疑がわしいからとのこと。



一方、黒い歴史はまだ続いた。

何年か経ち、ソイル国は温暖な環境下で、GNPは低くとも平穏な暮らしをしていた。

対してイーストソイル国は、観光に力を入れて発展し、海岸部を中心にアフリカの中では豊かな生活を営むようになった。


そんなとき、ソイル国で石油が発掘された。


ただ、問題は、ソイル国が内陸にあり、石油を運ぶことが困難であること。いち早く目をつけた中国がパイプラインの共同建設に力を貸してくれた。ルートはイーストソイル国の港を使っての貿易である。イーストソイル国は、石油の輸送に法外な関税をかけた。


そういった状況の中、イーストソイル国を通るパイプラインの一部が爆破された。

イギリス領支配下の時から存在していたソイル国の軍が、イーストソイル国に乗り込み、パイプラインの警備に当たることになった。その時の軍の目的は、パイプラインを守ることであり、黒い歴史を繰り返すためではなかった。

警備を明確にする為に、砂漠地帯でもステップ地帯でも、遠くから目立つ、ライトブルーの軍服が採用された。もともとは、車の整備に使われていた作業着だった。銃は、世界最貧国であった為、イギリス軍が支給したままの旧式ものが多かった。慣れない灼熱の太陽の下、体の水分は奪われ、体力は死に近づく。そんな中で、旧式の銃はあまりに重かった。


1人のライトブルーソルジャーが銃を下ろし、休んでいた。

そこに浮浪者が来た。イーストソイル国の内陸、砂漠地帯では定職にありつける者は少なかったのだ。浮浪者は、軍のキャンプにある食べ物をほんの少しでいいから分けて欲しいと訴えた。言われたソルジャーは、一度聞き入れると、延々と続くだろうと考えて断った。

浮浪者は、ソルジャーの銃を取り上げて脅した。それを見つけた他のソルジャーが、浮浪者を射殺。

これに恨みを持った浮浪者の息子が、仲間と軍を襲った。過去の黒い歴史を心に刻みつけ、結束を堅くした集団となり、事件は1箇所にとどまらず7箇所となった。18人のライトブルーソルジャーが死傷し、倉庫の物を略奪された。


被害が続出し、両国のトップが対談。ソイル軍はイーストソイル国から退くことを要求された。

ソイル軍が警備を撤退してから、わずか1週間後に再び、国境でパイプラインの警備をしていたライトブルーソルジャーが襲われた。ソイル国は、イーストソイル国にパイプラインの警備を依頼することとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る