「驚いたよ。てっきり大学進学の話だと思ったから」

劉の父親は、溜息を漏らしながら呟いた。

「そーなの?」

と劉。

「お前はノースアンド共和国の大学へ行きたいって言ってたけど、

 アメリカに憧れてるから、奨学金制度を作ってくれとかなんとか、

 エバンのお父さんに頼むんだと思ってたよ」

「え。アメリカのこと、知ってたんだ。

 だけど、大臣に交渉しようなんて思ってないよ」

「よかったよ。そんなこと言ったら、

 『自力でなんとかしろ』ってぶん殴るつもりだった」

はー。劉のお父さんって、息子のこと分かってるんだなー。


「お父さんは何の話だと思った?」

エバンが自分の父親に聞く。

「国中のすべての子供が高校へ行けるようにしてほしいって頼むのかと思った。

 いつも『教育が人と国を救う』って言ってるから」

「そっか。それは、時間がかかるだろうし、自分のライフワークだと思ってる」

エバンってすげぇ。なんか考えてることが高尚。本当にいるんだ、こーゆーヤツ。日本人のオレからしたら、ユニコーン並みの存在。

「よし! 分かった」

エバンのお父さんが、何かを決めたようだった。


「明日、記者会見をしよう。場所は滝へ行くバス通り。

 荒らされないように、至急、警備を増やそう。

 丁度、カンデラバースニウムの発掘場所の近くだ。

 で、今すぐ、大学の研究室に連絡を取るよ。

 発掘調査は専門家に任せようと思う。どうだい?」


「「お願いします」」

エバンと劉は、直立してから頭を下げた。

「手伝えることはあるかい?」

劉のお父さんが声を掛ける。

「じゃ、これから僕は連絡に追われるから、考えて欲しいことがある。

 この遺跡がイーストソイル国との国境に跨っていた場合に考えられる

 メリットとデメリットを。それから、

 カンデラバースニウム発掘と共存できるのかを」

「分かった。できるかぎり考えるよ」

劉のお父さんがバッグから手帳とペンを取り出した。

「それから劉。警備は明日の九時からだ。

 その後、記者会見の前に、SNSで世界中に情報を拡散してくれ」

「はい。でも、なぜですか?」

「このソイル国を世界中から注目させるためだよ。ひょっとすると、

 それぼど古くもなく、学術的に大したことないという可能性もある。

 それでも、SNSで話題になれば、このソイル国に観光客を呼べる」

「お父さん、大勢の人が来て、土地が荒らされてもいいの?!」

エバンが抗議する。


「この国は今のままじゃいけない。

 世界に取り残されて、国際便が週に一本なんて。

 外貨を獲得して、国際スタンダードになるんだ」


「国際スタンダードか!」

劉のお父さんの明るい声が響いた。

「そうだよ。みんなの家に電気が通るんだ。

 みんなが教育を受けるんだ。子供が病気になっても、薬の処方の仕方を読める。

 時計が読めれば、いつ子供に薬をあげるのかが分かる」

エバンのお父さんが頷きながら話す。

え? ちょっと、この国って、字や時計を読めない人がいるってこと? 電気がない家があるって?

オレは相当怪訝な顔をしていたらしい。

「高橋、そうなんだよ。ここは」

「都市部から離れると、子供は朝から畑仕事をしてる。識字率は低い」

エバンが教えてくれた。師匠は知っていたみたいだ。岳ちゃんはオレと一緒に驚いていた。


「グレートリフトバレーの地熱で地熱発電が盛んだけど、

 今の設備じゃこの国全部の電気は足りないんだ」

師匠はどこでそんな情報を仕入れるんだ?

「そんなことよく知ってるな」

「研究所で電気を使うときに、使用制限があるんだ。だから」

エバンのお父さんはどこかに電話を始めた。そしてスマホを片手に「あ、優吾!」とオレを振り返る。

「はい」

「歓迎パーティに来ていた日本人に連絡してほしい。ユニセフの人」

「分かりました」

言われたことは分かった。でも、なんで?

「世界遺産はユネスコが関連してるから。で、ユネスコの中にユニセフがある。細くてもパイプを作っておくんじゃない?」

はー。師匠って知らないことないのかも。


連絡すると、ユニセフ職員はちょうどD金属社の森さんと飲んでいるところで、森さんも一緒にエバンの家にやってきた。

他にも、ソイル国の要人らしき年配の人達が数人、次々と姿を見せた。

「後のことはこっちで考えるよ。君たちはSNSの準備ができたら寝なさい」

とダディ。

「今日は疲れただろ? やー、しかし、すごいっ! グレート!」

劉の父親は笑いながら劉の髪の毛をわしゃわしゃと撫でてくしゃくしゃにした。

「やめろよ。禿げる」

劉、髪の薄い父親に向かって、容赦ねえ。


「ダディ、ソイル軍が、銃を持たずに警備に当たることはできないの?」


エバンが真剣な声を出した。

は? 軍? 銃?

「カンデラバースニウムと同じようにライトブルーソルジャーが警備を担当することになると思うから、それは無理だ」

警察じゃなくて軍が警備をするって? 遺跡なのに?

「日本的な考えかもしれませんが、

 資源や遺跡の発掘に軍が出るというのは、行き過ぎな感じがします。

 資源に至っては、精錬する前の状態のものは、ほぼ意味がない。遺跡の方は、

 盗難を心配するような宝は、一見して見受けられなかったんですけど。

 日本だったら『立ち入り禁止』という立て看板とせいぜい数名の警官くらいです」

カンデラバースニウム発掘の場所には、ソイル国の軍服を着たライトブルーソルジャーが大きな銃を持ってうろうろしていた。1人や2人じゃない。山の中を歩いているソルジャーまでいた。資源や遺跡の警備に軍が出てくるなんて。

「日本とは治安が違うからね。 立て看板ってわけにはいかない」


「銃を持たないだけでも」


再度訴えるエバン。

「検討してみるよ」

 難しそうな顔で、ダディは会議をする応接室に入って行った。

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