②
ふと思い出す。バスの運転手の言葉。
『カンデラバースニウムが発見されて、
ライトブルーソルジャーがいっぱいいるからな』
「カンデラバースニウムが発見された場所はどこ?
もし近かったら、言わなくても自然に発見されるんじゃね?」
地質調査を本格的にやったら、天井から太陽光が差すくらい地表に近いんだ。すぐに見つかる。
「カンデラバースニウムが発見されたのは、イーストソイル国との国境付近だから、
もう少し離れてると思う」
「思うって?」
岳ちゃんがカメラを眺めて、滝の写真を出す。緯度と経度を表示させる。今度はリュックの中からソイル国の地図を取り出した。日本には売ってなくて、ソイルの空港で買ってたっけ。
「ソイル国とイーストソイル国は東経**度の線で分かれてるんだろ?
滝はソイル国。ここは、滝よりはイーストソイル国に近いけど、ぎりソイル国。
洞窟は滝より北の高原の地下。
でもさ、あっちにも真っ暗な洞窟があって続いてるんだろ?
そっちはイーストソイル国かも」
「えーっと、ちょっと待って。写真で撮った研究所の資料に、
カンデラバースニウムが発見されたポイントが載ってるかもしれない」
スマホの写真データを調べ始める師匠。
「あった。この地図」
師匠は岳ちゃんが広げたソイル国の地図と同じ向きにスマホを差し出した。
「「ほとんど同じじゃん?」」
岳ちゃんとオレの声が重なった。
考え込むエバンと劉。
「エバンのお父さんに相談しよう」
劉はエバンの顔を覗き込んで言った。
なんで? それぞれの親じゃなくって? ダディは確か、公務員って言ってたっけ。
「ダディは相談しやすいの? 学校の先生?」
オレの言葉は相当間抜けだったみたいだ。岳ちゃんが呆れた顔で口を開いた。
「産業大臣だよ」
「は?」
「国の大臣。えらいひと」
えええーーーー。
「そうだったの? なんか、
優しそうだし、悪いことしてなさそうだし、政治家だと思わなかったよー」
やべっ。オレって、またうっかり発言。
「高橋。信念を持って政治活動している、大勢の日本の政治家に謝れ」
「すんません」
「そーいえばさ、ここって、自然遺産候補なんだろ?
だったら、発掘されないかも」
「観光客の外貨が欲しくて、自然遺産として申請したのは、イーストソイル国。
どーなるんだろーなー。申請を取り下げればいいだけの話だから」
「ありがとう」
「え?」
「オレら二人にとって、ずっと抱えてた、抱えきれない大きな悩みだったんだ」
「劉が、FaceBookで、岳と知り合ったとき、
救世主だっ......て思っ......たんだ」
エバンは泣き出した。
「泣くことじゃないだろ?」
劉がエバンの肩を抱いた。
「黙ってることが......辛かっ、たんだ。正しい......ことなのかどうか」
エバンはランタンの灯りに照らされながら静かに涙を流していた。それに答えるかのように劉も無言。
「そっか、オレ、救世主か。でもさ、オレは救世主より発見者になりたかったな」
ばん ばん
岳ちゃんは明るくにこやかにエバンと劉の肩を叩いた。
持ってきたハンバーガーを食べて、ポテトも食べて、お菓子も食べて。あ、バーガー2個って食いすぎかも。こっちのサイズでかいんだよ。帰り歩けるかな。
時間が許すなら隅から隅まで見てみたい、オレ。それは3人とも同じみたいで、持ってきた食べ物を3分くらいで平らげた。
エバンの涙もすっかり乾いた。歩きやすそうなところをなるべく真っ直ぐ進む。真っ直ぐ進むのは、師匠とエバンが歩数を数えてたから。歩幅と歩数から距離を出して、2人の平均をするらしい。
オレはメモ用紙に大まかな平面図を書いて、2人の歩数を記録。同時に岳ちゃんの写真の番号と位置も記入。劉は懐中電灯で、直線となる歩く場所を決めたり、目立った建造物なんかを案内してくれた。
「ここ」
エバンが突然立ち止まって地面を指差す。建物が崩れた風で、瓦礫に灰がかかっている。
「ここにコインを落としたんだ。2回目に来たとき」
コインを落としたという部分の灰は取り払われていた。瓦礫と瓦礫の間には隙間がある。コインはどこにもない。
「ここじゃ取れないじゃん」
どう見ても、コインの幅より広い隙間はぽっかりと口を開いていて、ペンライトの光を当てても底は見えない。
「落とした時、コインは取れなかったけどさ、見えてたんだよ。取れないぎりぎりのとこで挟まってた」
「「「そーなの?!」」」
「だからさ、動いてるんだって。地面が」
「すげー。すっげー。マジすげー」
岳ちゃんが大興奮。
「少しずつ離れてるって?!」
オレもなんだか嬉しい。だってさ、大地が動いてんだよ。地球の亀裂、ここにあり!的な。
「そうか。コインの厚さは1ミリとして、今この亀裂の幅は……」
年間どれくらい動いているのかを計算しようとする師匠。
驚くことだらけ。
一際大きな建造物は、マヤ文明を連想させた。人の骨も見かけた。壊れた頭蓋骨があるのに、不思議と怖くなかった。
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