「これ、なんだ?」

 突然、師匠が隅の方にあったものに反応。火山灰を被った山? 少なくともオレには、ただ盛り上がったのか、埋まったときに崩れたのかというだけのもので、遺跡というよりは地形の一部にしか見えなかった。

 師匠は、滝壺には手を浸すことしかできなかったくせに、火山灰を素手でかき分け始めた。

「どーした?」

「ここ、何かが積んである」

「山じゃね?」


「カンデラバースニウム!」


「は?」

「たぶん。暗いし、よくわかんないけど。たぶん」

「まさか。だってさ、つい最近見つかった物質なんだろ?」

「でも似てる。

 これ、カンデラバースニウムを精錬する過程でできる、不純物が高いやつ」

「マジで?」

「1個持って帰っていい? 僕、研究所で調べる」

「エネルギ資源の可能性もあるんだろ?」

「まさか、エネルギー取り出して使ってたって?」

「遥か昔の人が、そこまでの技術持ってたって思えないんだけど」

みんなで首をかしげる。


師匠がリュックにテニスボールくらいの塊を入れているとき、オレは足を滑らせた。

「おっと」


 ずるずるずるずるずるずる


そして、なんだかみんながいる場所より、2メートルくらい低い場所に落ちてしまった。足が火山灰に埋まっているから、実際にはもっと深いだろう。エバンの大きい懐中電灯で辺りを照らしてもらうと、オレが落ちた部分は火山灰が他のところよりも低く積もっていて、幅3メートルくらいで川のように続いている。登れそうなところを探した。まあ、どこもかしこも火山灰が積もっているから、適当に足場を探し、すぐにみんなのところへ戻った。

「大丈夫?」

「びっくりした。なんかさ、川? 道? 

 埋まってて分かんないけど、ずっと向こうに続いてそうな感じだった」

オレが数メートル歩いた感想を言った。ずっと向こうはイーストソイル国側。

「川だったのかもな。文明はやっぱ川なんじゃない?」

エバンはそう言ったけれど、オレは違った。

「師匠、カンデラバーズニウムをそこまでにするのに、水はできる?」

「ここまでだと水くらいしかできない」

ひょっとしてさ、大昔の人がカンデラバースニウムから……。

「水作ってたとか?」

「いやいやいや。まさかまさか」

「つい最近発見された物質だって」

否定された。

でもさ、今の人にとっちゃ最近発見したレアメタルかもしんないけどさ、ここの昔の人にとっちゃ、もともと近くにゴロゴロあったもんなんだろ?

「とにかく調べる」

 師匠は妙に嬉しそう。

岳ちゃんはひたすら写真を撮りまくった。5人で簡単な地図を作る作業を続けた。オレが滑り落ちた、幅3メートルくらいの他の部分より低い道みたいなものも描き入れた。



「ヘイ!岳。記念撮影しよう」

全員、オート撮影で。


カシャ


「もうしばらく、入れなくなるかもしれないからな」

「発見した2人で撮らせて」

岳ちゃん、その心遣い、惚れる。

今日って日はきっと一生胸に刻まれって思う。

ひょっとするとエバンと劉の名は歴史に刻まれるかもしれない。


帰る途中、見晴らしのいい崖の上で立ち止まる。もう一度、眼下に広がる樹海を目に焼き付けるために。

「「「「絶景ー!」」」」


高所恐怖症の師匠だけは崖に近寄らず、イーストソイル国側を見ていた。だから師匠は気づいた。

「あ、ライトブルーソルジャーがいる」

「「「「ええ!!」」」」

一斉に師匠の示す方向を見る。

鮮やかなライトブルーの服が、やっと確認できる程度の場所に2つ動いている。視力のいいエバンは、それより向こうに更に3人いるのも見えるらしい。北の方角。

つまり、あの辺りがカンデラバースニウムの発見場所ってことだ。

「目と鼻の先じゃん」

「オレらが何かしてもしなくても、遺跡は見つかる運命なのかもな」

「どうせ見つかるにしても、黙ってたこと、ちゃんと話そう」

エバンと劉は肩を組んだ。

「世紀の発見かもしれなねーゃん。外国のテレビが来てもかっこよく映れよ」

冷やかしてやった。

エバンは携帯の電波が届くところで、ダディに「大事な話があるんだ」って連絡。


大きな心の荷物を下ろしたせいか、エバンと劉は晴れ晴れとした顔で、始終ふざけあっていた。

「ハシゴ作るとき、大変だったよな。

 太いロープが欲しいんだけど、高かったから、二人でお小遣い貯めてさ。

 しかもロープって重くて」

「はははは。楽しかった」

「岩に固定するのも大変だったよなー。

 岩は固いし、土が柔らかすぎるとこはぐらぐらで」

やっぱり、安全面に問題あったじゃん。

「劉が蛇に噛まれたときは、学校で噛まれたって嘘ついてさ。

 おんぶして帰ったよな」

恐っ。

「行く前に聞いてたら、僕、遠慮したかも」

ボソッと呟く師匠。

「いーなー。オレもここで生まれて、2人と一緒に見つけたかったよー」

もちろんこれは、岳ちゃんの言葉。

「ソイル国の中心は近いから、火山の噴火から生き延びた人が、

 この国のご先祖かもな」

「少なくとも、国境線を引いたときより昔ってことだよな?」

「どう見たって、ぜんぜん古い」

歩きながら、みんな多少興奮気味だった。そりゃさ、あんなすげーもん目の当たりにしたんだから。


帰り道、オレは別のことを考えていた。


「なんかさ、あの軍服って、すっげー目立ってたな。ほら、普通、軍服って、戦うときに周りに馴染む色じゃん? オレら、崖の上から、すっげー遠くのライトブルーソルジャー見つけたじゃん。なんかさ、違和感」


戦争の歴史がないのに、どうして軍事政権なのか。岳ちゃんが言うように「警察みたいなもん」だったら、ライフルではなく、ピストルや警棒の方が持ち運びやすい。あんな派手な長さ1メートルの銃が、平和な国に必要なのか。レアメタルが見つかったからといって、なぜソイル軍が国境に出てくるのか。

イーストソイル国ってどんな国なんだ? 元々は同じ言葉を話す、海の民。

イーストソイル国って言えば、あのストリートチルドレン達は、そこからやってきたらしい。今夜、あの国についてしーらべよっと。

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