③
「これ、なんだ?」
突然、師匠が隅の方にあったものに反応。火山灰を被った山? 少なくともオレには、ただ盛り上がったのか、埋まったときに崩れたのかというだけのもので、遺跡というよりは地形の一部にしか見えなかった。
師匠は、滝壺には手を浸すことしかできなかったくせに、火山灰を素手でかき分け始めた。
「どーした?」
「ここ、何かが積んである」
「山じゃね?」
「カンデラバースニウム!」
「は?」
「たぶん。暗いし、よくわかんないけど。たぶん」
「まさか。だってさ、つい最近見つかった物質なんだろ?」
「でも似てる。
これ、カンデラバースニウムを精錬する過程でできる、不純物が高いやつ」
「マジで?」
「1個持って帰っていい? 僕、研究所で調べる」
「エネルギ資源の可能性もあるんだろ?」
「まさか、エネルギー取り出して使ってたって?」
「遥か昔の人が、そこまでの技術持ってたって思えないんだけど」
みんなで首をかしげる。
師匠がリュックにテニスボールくらいの塊を入れているとき、オレは足を滑らせた。
「おっと」
ずるずるずるずるずるずる
そして、なんだかみんながいる場所より、2メートルくらい低い場所に落ちてしまった。足が火山灰に埋まっているから、実際にはもっと深いだろう。エバンの大きい懐中電灯で辺りを照らしてもらうと、オレが落ちた部分は火山灰が他のところよりも低く積もっていて、幅3メートルくらいで川のように続いている。登れそうなところを探した。まあ、どこもかしこも火山灰が積もっているから、適当に足場を探し、すぐにみんなのところへ戻った。
「大丈夫?」
「びっくりした。なんかさ、川? 道?
埋まってて分かんないけど、ずっと向こうに続いてそうな感じだった」
オレが数メートル歩いた感想を言った。ずっと向こうはイーストソイル国側。
「川だったのかもな。文明はやっぱ川なんじゃない?」
エバンはそう言ったけれど、オレは違った。
「師匠、カンデラバーズニウムをそこまでにするのに、水はできる?」
「ここまでだと水くらいしかできない」
ひょっとしてさ、大昔の人がカンデラバースニウムから……。
「水作ってたとか?」
「いやいやいや。まさかまさか」
「つい最近発見された物質だって」
否定された。
でもさ、今の人にとっちゃ最近発見したレアメタルかもしんないけどさ、ここの昔の人にとっちゃ、もともと近くにゴロゴロあったもんなんだろ?
「とにかく調べる」
師匠は妙に嬉しそう。
岳ちゃんはひたすら写真を撮りまくった。5人で簡単な地図を作る作業を続けた。オレが滑り落ちた、幅3メートルくらいの他の部分より低い道みたいなものも描き入れた。
「ヘイ!岳。記念撮影しよう」
全員、オート撮影で。
カシャ
「もうしばらく、入れなくなるかもしれないからな」
「発見した2人で撮らせて」
岳ちゃん、その心遣い、惚れる。
今日って日はきっと一生胸に刻まれって思う。
ひょっとするとエバンと劉の名は歴史に刻まれるかもしれない。
帰る途中、見晴らしのいい崖の上で立ち止まる。もう一度、眼下に広がる樹海を目に焼き付けるために。
「「「「絶景ー!」」」」
高所恐怖症の師匠だけは崖に近寄らず、イーストソイル国側を見ていた。だから師匠は気づいた。
「あ、ライトブルーソルジャーがいる」
「「「「ええ!!」」」」
一斉に師匠の示す方向を見る。
鮮やかなライトブルーの服が、やっと確認できる程度の場所に2つ動いている。視力のいいエバンは、それより向こうに更に3人いるのも見えるらしい。北の方角。
つまり、あの辺りがカンデラバースニウムの発見場所ってことだ。
「目と鼻の先じゃん」
「オレらが何かしてもしなくても、遺跡は見つかる運命なのかもな」
「どうせ見つかるにしても、黙ってたこと、ちゃんと話そう」
エバンと劉は肩を組んだ。
「世紀の発見かもしれなねーゃん。外国のテレビが来てもかっこよく映れよ」
冷やかしてやった。
エバンは携帯の電波が届くところで、ダディに「大事な話があるんだ」って連絡。
大きな心の荷物を下ろしたせいか、エバンと劉は晴れ晴れとした顔で、始終ふざけあっていた。
「ハシゴ作るとき、大変だったよな。
太いロープが欲しいんだけど、高かったから、二人でお小遣い貯めてさ。
しかもロープって重くて」
「はははは。楽しかった」
「岩に固定するのも大変だったよなー。
岩は固いし、土が柔らかすぎるとこはぐらぐらで」
やっぱり、安全面に問題あったじゃん。
「劉が蛇に噛まれたときは、学校で噛まれたって嘘ついてさ。
おんぶして帰ったよな」
恐っ。
「行く前に聞いてたら、僕、遠慮したかも」
ボソッと呟く師匠。
「いーなー。オレもここで生まれて、2人と一緒に見つけたかったよー」
もちろんこれは、岳ちゃんの言葉。
「ソイル国の中心は近いから、火山の噴火から生き延びた人が、
この国のご先祖かもな」
「少なくとも、国境線を引いたときより昔ってことだよな?」
「どう見たって、ぜんぜん古い」
歩きながら、みんな多少興奮気味だった。そりゃさ、あんなすげーもん目の当たりにしたんだから。
帰り道、オレは別のことを考えていた。
「なんかさ、あの軍服って、すっげー目立ってたな。ほら、普通、軍服って、戦うときに周りに馴染む色じゃん? オレら、崖の上から、すっげー遠くのライトブルーソルジャー見つけたじゃん。なんかさ、違和感」
戦争の歴史がないのに、どうして軍事政権なのか。岳ちゃんが言うように「警察みたいなもん」だったら、ライフルではなく、ピストルや警棒の方が持ち運びやすい。あんな派手な長さ1メートルの銃が、平和な国に必要なのか。レアメタルが見つかったからといって、なぜソイル軍が国境に出てくるのか。
イーストソイル国ってどんな国なんだ? 元々は同じ言葉を話す、海の民。
イーストソイル国って言えば、あのストリートチルドレン達は、そこからやってきたらしい。今夜、あの国についてしーらべよっと。
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