②
「すっげー、すごかった!」
ある夜、興奮して岳ちゃんが帰ってきた。
「行ったんだよ! グレートリフトバレー」
「えー、オレだって行きたいのにー」
ちょっと抗議。
「だってさ、道とか大変かもしんないじゃん?
だから下調べも兼ねて。ヤバい。あの景色」
岳ちゃんの顔があまりにきらきらして嬉しそうで、「行きたくて我慢できなかったんだろ?」って言葉を飲み込んだ。
夕食中、喋るのに夢中で、マッシュポテトをぼろぼろこぼす岳ちゃん。
「一面緑なんだ。もう、広い広い」
これ、上から見た景色ね。
「こう、崖がざざっと切り立っててさ」
これ、たぶん、下から見た景色ね。
「まさに大地の亀裂だよ! アフリカに地球の亀裂があるんだよ」
これ、もう空飛んで、宇宙辺りから眺めてる景色ね。
「で、道はどうだった?」
「......」
あれ? 黙った。
「道はないよ」
岳ちゃんの代わりにエバンが答える。
「オレは大丈夫だったけど。高橋とか下仁田とか、大丈夫かなー」
「そんなハードなの?」
「コンビニもトイレもないよ」
「とーぜんでしょ?」
そんなことは想定内。
「下仁田は、綺麗好きなんだよー。
今回の留学も『トイレが水洗じゃなかったら行かない』って言ったんだ。
だからオレが、FaceBookで知り合った劉に訊いてさ」
「へー、師匠がねー」
「高橋もさ、蛇とか虫とかはへーき?」
「......がんばります」
「あー、下仁田なんて無理だろうなー。体力もつかな?」
岳ちゃんが困り顔。
そーか。体力だけじゃダメなんだ。蛇は、小さいころ振り回して遊んだことあるけど、せいぜい70センチ。アフリカの蛇なんて、何メートルとかありそう。虫は、カブトムシやカマキリ、蝶はOK。長くて足がいっぱいあるやつがNG。
「オレ、長袖、長ズボン、手袋で行く」
「もちろん。それは基本だけど」
あ、基本なんだ。
「暑い?」
「涼しいくらい。そんなこと、全く気にならないくらい、すげーって」
「うんうん」
エバンも頷く。
師匠に「道がない」と連絡。更に「最終コンビニはバスに乗る前」って。
「岳ちゃんと師匠って、仲いーの? 前から知ってるみたいだったからさ」
「中学んとき、塾で同じクラスだった」
「だからかー」
「プリンス下仁田は、塾で人気あった?」
エバンが聞く。
「すごかった。待ち受けにすると高校合格するって言われてた」
「さすが師匠」
「え? でも、S校で一番女の子にモテたのは高橋なんだろ?
ミスターS校って聞いた」
エバンがオレと同じ疑問を持つ。留学の話があるまで、オレは師匠のこと知らなかった。なんでミスターS校にならなかったんだろ。
「高橋は目立つからね。下仁田は性格が地味。
ミスターにエントリーもしてない。アイツ、やる気ないから」
なんとなく想像できる。
「やる気ってゆーか、興味なさそー」
師匠がエントリーしてたら、オレ、3500円儲けられなかっただろうなー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます