グレートリフトバレー

ソイルでの生活が始まってから10日経った。ビーサンとライトブルーのTシャツを買った。

だいぶ慣れた。


エバンがサッカー部だったから、オレは、留学期間中だけ入部。体を動かせる場ができてラッキー。岳ちゃんは、山岳部なんてないけど、劉とよく出かけてる。師匠はさ、科学部なんてあるわけねーじゃん? ただ、オレ→親父→M社の林さん→D金属社の森さん→ソイルの希土類研究所って訳わかんねえーツテで、カンデラバースニウムの精錬を見学に行ったりしてる。


莉那ちゃんとハナは、新体操部がないから、ラクロス部に入部って。

「どうしよう。日焼けの痕ついたら。プロテクト五〇なんだけど、不安~」

「男の子より黒くなりたくないよ。ジョ―ジって美白なんだもん」

ん?

なんか、よけーなこと聞こえちまったぜ。忘れそうになるが、ジョージは師匠の名前。莉那ちゃん、下ネタ男がそんなにいーのか? 


学校のグランドは広大。サッカー部の隣でラクロス部が活動。

「「「「きゃー。エバンー!」」」」

彼女がいても、この国でのイケメン、エバンはモテモテ。

でもさ、サッカーのレベルって、日本は高いんだって実感。オレは幼稚園からサッカー少年。来る日も来る日もサッカー三昧。平日にサッカースクール行って、土日は年間200試合くらいして。中学入る前にセレクション受けて、中学のときはクラブチームでみっちり。

高校では、たとえ激弱と言えども、サッカー部員は小さなころからサッカー三昧のサッカー少年。

ソイル国は違う。サッカー部に初心者もいる。「オフサイドライン上げよう」って通じなかったヤツもいたしなー。

でもさ、身体能力がすっげー高い。ボールを扱うテクニックじゃ勝てても、すっげー足速いし、すっげー高い位置でヘディングするしさ、反射神経も抜群。遺伝子に勝てねー気がする。全体的に、走るための脚とケツなんだよ。アフリカの人って。


「「「「イエーイ」」」」

隣のラクロスのコートから、喜び合う女の子たちの声が聞こえた。

「またニーナ?」

「やっぱりニーナだ」

「すげーな。あいつ」

サッカー部員が隣のコートを眺める。

「次、行くよ!」

と笑いながら走るニーナ。

お揃いのTシャツ、ハーフパンツ。長い脚。走るための脚。

「ニーナよりさ、ナイジェルに走ってほしーよな」

「ゴーリーじゃ、綺麗な顔も脚も隠れすぎ」

サッカー部が女の子の顔や脚を大好きなのは、世界共通なんだなー。


ニーナ、マジでカッコいい。よっし、オレも魅せるぜ。

「高橋! 上手いっ」

ループシュートにヒールキック。シュート後のバク転。

「「「「きゃー、高橋」」」」

これこれ。実力?

「「「「エバンが見えないーー」」」」

コート脇を見ると、スマホで写真を撮ろうとする女の子の群れ。

「「「「高橋ー、どけー」」」」

 凹む。

この国の美意識からすると、オレたち日本のイケメン(自己評価)は、問題外にブサイク。の、はず......

「「「「あ、プリンス下仁田よ」」」」

「「「「きゃっステキ」」」」

師匠だけは何故か例外。ハーフって得だよな。

テニスコートから歩いてきた師匠が「よっ」ってオレに片手を挙げてくれた。テニスの後なのか額には汗なんてかいてるくせに、妙に爽やか。久しぶりの炎天下だったのか、うっすらと鼻の上と頬が赤い。日焼けした師匠も素敵です♡ No――――! どーした、オレ。無駄に色気ありすぎなんだよ、師匠。


オレ達がこんな風にスポーツできるのは、ソイル国の気候のおかげ。

アフリカって砂漠のイメージだけど、ソイル国のこの辺りはかなり海抜の高い山地や高原。だから、赤道に近いけれど緑に覆われている。日本と変わらない。さすがに雪は降らないけどさ。


隣のイーストソイル国とこのソイル国は、昔々は一つの国だった。そのころ、海に近いイーストソイル国側の人々は「海の民」と呼ばれ、ソイル国側の人々は「山の民」と呼ばれて、魚やらインド方面からの輸入品と、農作物や狩りで得た肉なんかを交換してたんだって。

エバンのお父さん、ダディが言ってた。

「ソイル国が世界最貧国として、世界から取り残されたのは、

 内陸国って理由だけじゃない。

 アフリカなのに、自然に恵まれて衣食住に困らなかったからだ」

確かに農作物も育ちそう。食料になる動物もいそう。

「石油が発掘されたとき、やっと周りの国々を見て、

 自分達の生活水準に驚いたんだ」


 人ってさ、相対評価で自分を見るんだろうな。幸せならいーじゃん、豊かならいーじゃんって思ってたはずでも、周りが更に上行っちゃうと、自分のいる現在地の価値が変わってしまう。

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