マック。男五人。オレ、羞恥処刑待ち。

「高橋は、ガールフレンドがいないのか?」

切り込み隊長はエバン。うるせー。プライバシー侵害だ。

「いねー」

「高橋は、サッカー部なんだろ? ソイルでも、サッカー部と陸上部は特別モテる」

は? なんで陸上部?

「とりあえず、モテないことはないかもしんないけど、それだけ」

「どーして?」

聞いてきたのは下仁田師匠。


「合コンで知り合っても、別に次に会いたいって思わねーし」

「ゲイ?」

マジな顔でエバンが聞いてきやがった。

「違う!」

そこだけははっきり否定。

「じゃ、なぜ?」


「ときめかねーんだよ」


「「「「......」」」」


やばっ。凍りついてやがる。

「っんだよ。別にいーじゃん」

つい出てしまったオレの日本語を「ほっといて」と通訳する岳ちゃん。しなくていーし。


「あのさ、高橋って、とりあえず付き合っとこうってしねーの?」

師匠が聞いてくる。

「とりあえずデートくらいはするときもある」

「で、ぶった切るんだ?」

「いーじゃん。もー。下仁田師匠はともかく、お前らだって、彼女いたことねーんだろ?」

 オレは岳ちゃん、エバン、劉にビシッと言ってやった。

「「「「......」」」」

ほーらみろ。黙りやがって。人のことばっか言ってんじゃねーよ。


「いるよ」

え、エバンに?

「ガールフレンドはいたことある」

 サラッと劉。

「ソイルは婚前交渉なしなんだろ?」

口に出してから、やばっと思うオレ。

「好きな子としゃべったり、映画を見るのに、どーしてそんなこと考える?」

「日本人の品性が疑われること言うなよ、高橋」

エバンと岳ちゃんからバッシング(泣)。


「下仁田師匠はさ、莉那ちゃんとつきあってないんだったら、彼女いねーじゃん?」

攻撃の矛先を師匠に向ける。だいたい科学部所属。顔がゆるふわ王子だって、師匠は若干下ネタヤロー。そうゆうギャップは萌えるどころか引くはず。たとえ百発百中でも一瞬しかつき合えないんじゃね?

「僕? 三年の先輩とつきあってた。でも『受験勉強に専念するって』言われたあたりから、連絡激減。今、やばいかも」

「……」

 師匠、中身のある恋愛もされてきたんですね。

「大丈夫なのか? 留学なんてして」

 エバンが心配そう。

「あっちも、大学受験と夏期講習でテンパってて。で、留学の話があったからいい機会かなと思ったんだ」

「そっかー」

「距離をおくのも冷静になれるかも」

「自然にまかせるしかないって」

もしもし? オレ以外の男で恋バナ?


「岳ちゃんの彼女も、寂しがってたよなー」

は? 師匠、今、なんつった?

「え? 岳ちゃんって彼女いるの?!」

なんつーか、顔も存在も、今一つ地味だからいないと思ってた。何気に失礼なオレ。

「え? 高橋、知らねーの? ダンス部の美玲ちゃん」

「知ってる。え? あの美脚美玲って、岳ちゃんの?!」

驚き。学年有数の美少女。ヤローの間には美脚美玲という四字熟語が存在する。


……。でも、なんか、岳ちゃんなら分かる。

女って残酷なくらい見る目あるんだよな。


「あの美脚は岳ちゃんのものなんだよ。美脚にキスとかさ、して……」

ガツッ

下ネタ師匠の下品な言葉に、岳ちゃんはお盆の角で一撃。

「ってことは、彼女いねーの、劉とオレだけ?」

で、劉は今いないだけ。既にハナといー感じでさ。

「「「「……」」」」

「下仁田師匠、助言を!」

「師匠やめーい」

下仁田師匠が「師匠」を否定。

「よし! 高橋を応援しよう!」

エバンがいきなり拳を突き上げて立ち上がる。

「賛成!」

劉が続く。

「自分でできるもん」

こんな返ししかできないオレって、小学生レベル。


「だったら、頑張れ」

「頑張るけどさ、勉強できる人がいいって言われた」

「「ああ......」」

心当たりがあるような顔をする、エバンと劉。

「ニーナとナイジェルは、取りつかれたみたいに勉強してるから」

「今日も莉那やハナと一緒に来なかったのは、勉強してるからだろ?」

「二人は、学校で一、二番のとびぬけた秀才なんだ」

「へー」

感心。そして、関心。なぜ?

「奨学金でもあんの?」

不思議そうに岳ちゃんが質問。

「大学行くときに奨学金はほしいのかも。でも、聞いたわけじゃない」

「奨学金はいらないだろ? ナイジェルなんて、街の名士の娘だろ?」

「ニーナはまあ普通だけど、お母さんがイギリス人だから、

 イギリスの大学へ行くのかもな」


そもそも、この国の進学ってどーなってるんだろ?

「エバンと劉は高校卒業したらどうすんの?」

「オレらはノースアンド共和国の大学志望」

なんでも、ソイル国には国立の大学が二つ、私立大学が三つしかない。近隣諸国でもいち早く発展したノースアンド共和国は、二人の憧れだとか。大学の数も内容も、アフリカ有数らしい。費用の面を考えても、ヨーロッパやアメリカに留学するより現実的って。


「ソイル国は、つい最近まで、世界最貧国の一つだったんだ」

「内陸で、世界から取り残されて」

「石油が見つかって、やっとここまで来た」

そんな話をエバンと劉から聞いた。

「ぜんぜん。アフリカのことって、あんまり知らなかったけど、

 イメージしてたのより、ずっと近代的じゃん」

これはホローでもなんでもなく、本心。

「たぶんさ、エバンと劉の家は、アッパークラスだと思うんだ。

 普通の人の暮らしって、どうなの?」

師匠の疑問は至極自然。


「小さくても家はイギリス風だよ。

 地方の少数民族は観光用に昔の暮らしを見せてるけど。

 それだって、別のとこに家も服もあって、通勤してんだ」

「そんなもん?」

「ビジネス。外国人観光客の相手は儲かるから」

「レートが違うもんな」

「ドルやユーロでチップくれることもあって、がっぽりって」

「外国のテレビ局相手とかね」

「昔のかっこして、ゲテモノ料理出すのがウケるんだよ」

なんか、聞かない方がいいこと聞いちゃったたかも。


紙コップの蓋を外して氷をシャリシャリ食べながら、オレは決意。

「あのさ、オレ、これからニーナに会おうと思うんだけど。女子寮って、いきなり行って、誰か取り次いでくれる? 管理人さんいる?」

自分でできる!

管理人は夏休みで不在らしく、師匠が莉那ちゃんに連絡してくれた。

「女子寮は学校のすぐ東だから」

オレは学校までのバスと、学校からエバンの家の近くまでのバスをメモ。

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