④
少し離れたテーブルで地図を広げているのは、岳ちゃん。
「がーくちゃん、何してんの?」
周りはソイルの男子学生ばっかりだから、勿論英語で話しかけた。
「グレートリフトバレーについて聞いてるんだ」
「おお!」
「もしよければ、明後日かその次くらいに行く?
道が険しいから、女の子はムリだと思うけど」
エバンと名札を付けた男子学生が、人懐っこい笑顔を見せた。
あ、オレのステイ先の家の息子じゃん。
「行きたい!」
オレは、岳ちゃんみたいに山オタクじゃねーけど、やっぱ、ここまで来たら、大地の亀裂は見たいっしょ。
「高橋は体力ありそうだから大丈夫だろうけど、3時間くらい歩くって。片道ね」
まるでなんでもないことのように笑う岳ちゃん。
「せっかくだから行ってみたい!」
もちろん下ネタ、おっと下仁田にも声をかけた。
ゆるふわ王子風のメガネイケメン下仁田は、白人とのハーフだからか科学部だからか色白。一目見て、エバン、一緒にいた中国系の2世、劉が不安気。
「えーっと。バスで30分、それから更に3時間くらいかかるけど、大丈夫?」
だよなー。下仁田って3時間山道を歩けそうに見えねーもん。
「是非」
周りの不安をよそに、下仁田は華麗な笑顔を見せた。
グレートリフトバレーはこの国をちょい斜めに縦断している。案内してくれるのは、東の国境付近にある場所。
「オレたちが見つけた絶景スポットに行こう!」
「部族の村もなくて、観光客も来ないんだ」
「すごい滝のカーテンがある」
二人とも興奮気味。
「すごいものを見せてやるよ」
片道3時間かかるということから、オレたち日本人がもう少し現地に慣れるまで待とうということになった。
「夏休みは長いからね」
イギリスの植民地だったソイル国は、8月は夏休み。9月から新学年。
よって宿題はなし。
「それがサマーバケーションだよなー」
オレが羨ましがると「勉強はしてるよ」とエバンと劉。
劉は岳ちゃんがFaceBookでやりとりしていた相手。エバンと劉は小さなころからとても仲がよかったんだって。
ちなみに、オレと岳ちゃんのステイ先はエバンの家。下仁田のスティ先は劉の家。
歓迎パーティがお開きになって、エバンの家に案内されることになった。
「高橋クン、明日、スマホを契約したら、ふるふるしてね」
ハナが言いに来る。
「うるせ、ブス。で、お前らのステイ先は?」
「女子寮。じゃね♪」
「は?」
オレは怪訝な顔をしていたらしい。普通、男子が寮で、女子こそ家だろ?って思ったわけだ。
「ああ。通学が危ないから、よほど近くに住んでいない限り、女の子は寮なんだ」
エバンの何気ない言葉に眉根を寄せる。いったいこの国のモラルはどーなってるんだ?
「はー」
隣でため息が一つ。ん?
「どうしたの? 劉」
「やっぱ岳の言う通り、ハナが好きなのは高橋なのかな?」
「キモいこと言うなって」
「高橋は、なんとも思ってないんだろ?」
「当然」
それどころか、嫌な女のナンバーワン。
「よっし。オレ頑張ろ」
ふーん。劉ってはっきりしてる。こーゆー話は照れるタイプかと思った。エバンに比べて口数が少なかったから。いや、大らかそうな雰囲気のアフリカの人に混じると東洋人ってだけでシャイに見えるんだよ。
「頑張れ! 君なら大丈夫」
岳ちゃんがばんっと劉の肩を叩く。
オレだって、ニーナ、頑張る。
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