エバンの家はでかかった。アフリカってさ、土壁とか想像してたんだよね。床はないと思ってたし。全く違う。先進国と一緒。まあ、エバンの家は特別に裕福そうかも。


エバンの家族を紹介された。お祖父さん、お祖母さん、お父さん、お母さん、三つ上のお兄さん。一緒には住んでいないけど、お嫁に行ったお姉さんとご主人、二歳の子供も来てくれてた。エバンのお姉さんは、この国での美人。顎割れてる系。


疲れているだろうからって、家での歓迎会は翌日の夜だと言われ、すぐ部屋へ案内された。岳ちゃんもオレも1部屋ずつ。シャワー&トイレ付き。1部屋8畳くらい。すげー。ベッドはクイーンサイズ。いいマット。


シャワーでも浴びるか。

シャワールームには、フカフカのバスタオルが用意されていた。ホテル並み。が。


なに? このシャワーの水圧。せっかくすっきりして眠りたかったのに。やっと石鹸が流れる程度の水圧なんだけど。しかも、シャンプーもボディソープも、あんまし泡立たない。オレが脂ぎってたってせいもある。だけどさ、3回洗っても気持ち程度しか泡立たない。更に。ハミガキ粉まずっ。持ってきてよかったー。


外国なんだなー。シャワーの水圧も、シャンプーやボディソープ、ハミガキ粉のクオリティも、日本が先進国であることの一部なんだろなー。


9:30か。日本だったら、まだまだ起きてる時間。もう、ぐっすり眠らせてもらうよ。飛行機、長かったもんなー。あー、体がベッドに溶け込んでいく。


ZZZZ......



翌朝はすっきり目覚めた。7:00。

すげっ。10時間近く寝たのか。疲れてたんだなー、オレ。いつもは6時間睡眠。授業中を入れると、もうちょい多め。


部屋を出て階下へ行くと、エバンのお父さんが朝食をとっていた。

「おはようございます」

「おはよう。早いね」

キッチンからエバンのお母さん。

「あらぁ、よく眠れた?」

「はい。とてもいいベッドで、ぐっすり眠れました」

「岳とエバンはまだよ」


テレビからはカンデラバースニウムのニュースが流れる。エバンのお父さんは、お皿の横にiPadを置いて「ふーん」と考えごと。その間に、オレはイスを勧められた。エバンのお母さんが、キッチンから料理を盛り付けたお皿を運んでくれる。


「あ、自分で運びます」

オレの申し出に、エバンのお母さんは驚く。

「まあ。日本男児って、キッチンに入らないって聞いてたわ」

「それは、30年以上前の話です。ミズ、えっと」

「あら、私のことは、マミーって呼んで頂戴。主人はダディで。ミズやミスターなんてつけなくていいのよ」

「はい、マミー」


そんなやり取りをしていると、エバンのお父さん、えっと、ダディが呟いた。

「カンデラバースニウムか。忙しくなるな」

「資源開発の会社にお勤めですか? ダディ」

ダディって呼ぶの、ちょっと照れる。

「いや、公務員なんだけどね。色々とね」

「そうなんですか」


「優吾は、カンデラバースニウムの発見は、どんな企業に影響を与えると思う?」


今更だけど、オレの名前は高橋優吾。でも、優吾って呼んでくれるのは父くらい。祖父母は「ゆうちゃん」、母は「アホユウ」と呼ぶ。

学校では「高橋」。学年に高橋は3名いるけど、「高橋」といえばオレ。他のヤツが下の名前や愛称で呼ばれてる。サッカー部の顧問が「高橋!」っていつもいつも怒鳴るからさ。はー、優吾って呼ばれると新鮮。


「まず、発掘する企業でしょうか。

 昨日の歓迎パーティに、日本のD金属社の人が欠席しました。

 カンデラバースニウムが発見されたからだそうです」

「そういえば、日本のD金属社は石油の採掘に来ていたな」


「これは僕の考えですが、

 原石のまま輸出するよりは、精錬は国内でした方がいいと思います。

 精錬する過程で水を抽出できるという利点があります。

 原石のままだと重いし嵩張るので、陸や海を使うしかないんですが、

 精錬した後は、軽量で飛行機で運べるらしいので。

 もし精錬場所を発掘場所の近くにすれば陸運業界への影響は小さいと思います」


「おお、ニュースに載ってるよ。

 カンデラバースニウム自体は軽量、希少で高価、通電性が高く加工しやすいって」

「加工まで国内でできたら、たくさんの外貨をこの国にもたらすと思います。

 昨日、友達が、発見されて数年の、新しい物質だと言っていました。

 クリーンエネルギーの可能性もあるそうです」

「国内で加工か。うんうん。参考になったよ」

エラそうなことを言ってしまってから、生意気だったかもと今更物怖じするオレ。

ダディは「国内で加工、国内、国内」と考え事をしながら仕事に出かけた。

「いってらっしゃい」

えーっと、まだ未成年の一高校生の意見なんでー。つーか、あんなこと、よく言えたよな。オレが過ぎたことにビビっていると、岳ちゃんとエバンが起きてきた。


「おはよ」

「「おはよ」」

「あーら、まだ寝ててもよかったのに。疲れはとれた?」

「はい。おはようございます」

オレはオレンジジュースを飲みながら、2人の食事を見守る。話題はグレートリフトバレー。

エバンがスマホで写真を次々に見せてくれる。


「おお! すげっ」

興奮気味の岳ちゃん。

「『滝のカーテン』って言ってたもんな」

スマホには、幅の広い滝。写っているエバンの身長の三倍以上ありそうな落差。幅は、それよりある。だってさ、横に長い滝だもん。

「早く行きたいー」

岳ちゃんはマジでグレートリフトバレーLOVE。


「岳ちゃんはさ、グレートリフトバレーがあるから、この留学を希望したの?」

「どーだろ。とにかく大自然が見たかったことは確かかなー。自分が小さく見えるものが好きなんだ」

「どうゆー意味?」

エバンは不思議顔。オレは、なんとなく分かる。存在のことだろ?

「人間なんて大したことないって思える自然に、なんか、感動するんだよね。がーって広がってるでっかいものが好きってこと。で、すっげーきれーなもの」

 両腕を大きく広げながら、岳ちゃんは自分の脳内に思い描く大自然の幻を見ていた。

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