②
「ニーナ。高橋ってゆーんだ。よろしく。連絡先教えてよ」
2ヶ月半しかないんだから、速攻でしょ。
オレはサッカー部じゃ、攻めまくるツートップの1人。
ニーナはクスクス笑う。
「はーい、高橋。でも、まだこっちでスマホを持っていないでしょ?」
うっわー。色っぽいハスキーボイス。笑顔もかわいい。つーか、文句なしの美人。
「ばーか」
ん? 今、誰かなんか言ったか? 声の主はハナだった。
「うるせー。黙ってろよ」
「世界の果てまで来てナンパ?」
ハナは呆れた顔で別のテーブルへ行ってしまった。
世界の果てって何だよ。だいたい、日本こそ世界のスタンダード地図じゃ「果て」なんだよ。
「あ、ニーナ! 待って」
笑いながらその場を去ろうとするニーナを引き留める。
「なに?」
「明日、スマホを契約する。そのとき、一番に連絡するから」
どうだ? 決まった?
ニーナはまたまたクスクス笑い出す。おっ、いい感じ。一気に押せ!
「ニーナはどんな男の子がタイプ? 彼氏はもういるの?」
オレがニーナを口説く様子を岳ちゃん、下仁田、莉那ちゃんが見学してる。
あ、莉那ちゃん、こめん。ニーナに一目惚れしたんだ。ちょっとした浮気心だと思って見逃してくれ。この一夏が終わったら戻るから。何事にも練習ってもんが必要なんだよ。
「私が好きなタイプ? 努力家で、勉強する人。この中で、一番頭がいいのは誰?」
オーマイガッ。知らねーけど、オレじゃないことだけは確か。
「この前の中間、オレ、298番」
こんな所に来てまで恥を晒すオレ。
「オレ、80番くらい」
と岳ちゃん。
「じゃ、僕かな? 9番」
そう言ったのは下仁田
オレらの高校は、入学時1学年320。但し、肌に合わなくて学校に来なくなったり留年したりで、実質310名くらい。当日に恐らくいただろう欠席者や、選択科目による点数のばらつきを考慮すれば、つまりはオレの順位は最下位層。
で、下仁田は勿体ぶらなくても、最上位層。
「じゃ、タイプはミスター下仁田」
ニーナが華やかに微笑んだ。
「だめっ」
え?
「だめ」と下仁田の前に立ちはだかったのは、莉那ちゃん。小さな体で通せんぼのように両手を横に広げ、眉をハの字にしてニーナを見つめる。
そーなの? そーゆーことなのか?
「あ、あ、あのね、ほら、すぐお別れでしょ?
だから、えっと、やめた方がいいと思うの。でも、高橋クンなら大丈夫だよ?」
あのさ、莉那ちゃん。ぜんぜん筋通ってねーじゃん? オレだって同じ期間しかソイル国に滞在しねーし。
「はー。玉砕。早過ぎ」
がっくりと肩を落とすオレ。
「「まあまあ」」
慰めるふりして笑う岳ちゃんと憎っくき下仁田。
「下仁田ぁ、ニーナだけじゃなく莉那ちゃんまで」
オレの言葉に下仁田は「家が近いだけだよ。高橋と佐藤みたいなもん」って。
全然ちげーよ。
「近いのか?」
「隣」
「は? 近すぎ」
「今回の留学は、莉那のお父さんに『心配だから』って頼まれたんだ」
「親まで公認かよ」
「違うって。つき合ってないって」
へー。そーですか。時間の問題なんだろ?
ん? ハナの隣に男子生徒がぴったりと並んでる。あらら? いい感じじゃん。2人で楽しそうに話してる。そいつはハナに飲み物を取ってやってる。ハナの方は、そいつの皿に料理を盛り付けつけてる。自己紹介をし合ったとき、中国人の2世だと言った「劉」。
「あの男、分かり易すぎじゃね?」
オレが笑うと、岳ちゃんと下仁田に反撃された。
「あれくらいは、誰にでもするって」
「佐藤さんはモテるからね。あれくらいじゃ」
「は? ブスがモテるって?」
「難攻不落のシュガーちゃんだろ?」
「入学したときから、告られても告られても
『ずっと好きな人がいるから』って断ってるって有名じゃん」
「へー」
たぶんオレのことだよな。昔からハナは、年に三回くらい「好き」って言ってくる。
バレンタインのチョコは、幼稚園のときから毎年貰ってる。クリスマスと誕生日の予定を訊いてくる。花火や祭りの日は、それとなく浴衣姿を見せにくる。高校が決まったときは、制服姿を見せに来たっけ。
ま、そんなところはかわいいんだよ。分かってるんだけどさ。今さら、なんともしよーがねーじゃん。
ほら、好きな子をいじめるタイプっているだろ? ハナは、まさにそーゆータイプで。幼稚園、小学校の低学年のとき、か弱い美少年だった(自己評価)オレは、よくいじめられた。砂をかけられ、消しゴムを投げられ、日焼けで赤くなった背中をビンタされ。挙げたらキリがない。
オレが女の子からモテ始めると、嫌がらせの仕方は変わってきた。ハナはアマゾネス軍団のボス的存在。オレに勝手に話しかけてはいけないってゆー女子ルールを作りやがった。オレが仲良くなろうとしたり、「かわいい」なんて言ったりしたら、女の子の方からそっと離れていく。オレが放課後呼び出した女の子に「行くな」と言い、他の男を紹介した。ありえん!
やっと塾で仲良くなりかけた女の子とのプリクラをスマホに貼っていたら、剥された。それだけじゃなく、そのプリクラに落書きをして女の子の筆箱に入れたんだ。
そんなことされてさ、「好きだから」って言われても、心動くわけねーじゃん。ハナの中身は真っ黒。ついでに、オレは「女が外見じゃわからない!」って教訓を得た。
だから、外見のせいでハナが男子から「難攻不落」って騒がれようが、「シュガーちゃん」と呼ばれようが、嫌な女の筆頭なんだよ。そりゃ、ちょっと綺麗になりすぎで計算外だけどさ。
嫌な過去を。ぐびっとジンジャーエールで口直し。
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