ソイルってやっぱ異国

ソイル国に着陸すると、空港が小さかった。


だよなー。1週間に1便だもんなー。国際空港なのに、日本の地方の空港よりは大きいかなってくらい。

何よりも驚いたのは警備体制だった。ライトブルーの制服を着て銃を持った男がそこら中に立っている。爽やかなライトブルーは、あまりに銃と不釣り合いだ。


「なにこれ?」

「ソイル国は軍が政権を握ってるからね。でも、歴史に戦争の記述はなかったよ。

 ただ、隣のノースアンド共和国では30年くらい前に独立戦争があったから、

 そのころにソイル軍が強化されたみたいだけど。

 基本、日本の警察みたいなもんらしいよ」

オレの疑問に、岳ちゃんが答えてくれた。

「ふーん」

異国情緒ありすぎ。軍が政権を握ってるってだけで物騒なんだけどなー。


空港には、12名の校長や教師、生徒の代表らしき人たちが迎えに来てくれていた。その中に1人。

おっ! すっげぇかわいい! マジ足長っ。胸でかっ。

オレの目を釘付けにした女の子がいた。


「ナイストゥミーチュー。マイネームイズ、ニーナ」


他の黒人よりちょっと違う肌の色、顔立ち、抜群のスタイル。後で男子学生に聞いたら、ニーナは白人とのハーフだった。


空港からバスで舗装されていない道を進む。

あれ? このバス、日本の観光会社名入ってるじゃん。

中古を使っているらしい。年数が経っても性能がいい日本車は、ソイル国では大人気なんだって。



「へー。高橋はニーナがタイプ?」

バスの中でニーナのことを訊くと、留学先のセント・ピエール高校の男子学生は思いっきり不思議な顔をする。

「誰がどう見ても、ダントツでかわいい」

と英語で主張してみた。

「「「「「Oh No!」」」」」

その場にいた男子学生全員が、渋い顔で首を横に振る。

「細すぎる」

「目がぱっちりすぎる」

「顔がすっきりしすぎ」

日本人のオレたちは、???


不思議に思ってオレは尋ねた。

「じゃ、この国の美人って、どんなタイプ?」

「たくましくて足が太い」

「堀の深い顔」

「やっぱ、腰がどんとボリュームあって」

「強そうじゃないとな」


今度は下仁田が質問。

「例えば、どの人がきれい?」

「「「ナイジェル!」」」

一斉に口にした後、こそこそとどの子かを教えてくれた。

は? ゴリラみてーじゃん? 長身で筋肉質。どっしりした脚腰。精悍で男前な顔立ち。「押忍!」って挨拶しそう。


「ああ、そっか。

 丈夫で働き者で子供をたくさん生んで、

 強い子を育てられそうな女性がモテルってことね」

岳ちゃんがうんうん頷きながら言った。

「価値観が違うのか。文化の違いだなー」

オレにとって今日一番の異国情緒に感慨深く感想を漏らす。


「はは。高橋、ラッキーじゃん。ニーナ狙えよ。

 でもさ、基本、ここじゃ結婚するまでできないだろうけど」

下仁田はいきなりの下ネタ。

「マジ?」

それは大変だろ。一夏の恋に支障を来たす。

さっそく確認。

「あのさー」

男子学生に聞いてみた。

......

......

......

「マジかよ」


なんでもこの辺りでは、良家ほどそーゆーことにこだわるらしい。で、留学先のセント・ピエール高校は良家の子供が多く、女の子はみーんなバージン。男の場合は関係ないから、色々あるそーな。


「でも、病気が怖いからね」

って。高校生の言葉かよっ。


代わりと言っちゃナンだけど、結婚は早いって。むか〜しの日本みたいだよなって思ったのはオレだけじゃないとだろう。バージンじゃなくなった女の子は、女としての価値が下がるらしい。怖っ。信じられないほどの男性社会。

「気分悪いな」

下仁田が日本語でボソッと呟いた。

「まったく。日本の女の子って、日本に生まれてよかったよな」

岳ちゃんの言葉にオレも同感。


「だいたいさー。美人の定義からして、子孫のための道具みてーじゃん」

気がつくとオレも日本語で話していた。岳ちゃんがソイル国の男子学生に「男性中心の社会って話をしてるんだ」と英語で説明。

「そんなことないよ。優秀な女性は政府や会社の重要なポストにたくさんいるよ」

そーゆーことじゃないんだけど。ま、いいか。



しっかし揺れる。舗装されていない道路でも、車は多い。巻き上がる土埃。ふと隣を走っている乗用車を見ると、窓が開いている。土埃すげーのに。エアコンがついてないのか、壊れているんだろう。

バスは空港から1時間くらいで留学先のセント・ピエール高校に着いた。

荷物を置いて、案内されたのはパーティ会場。校長を初めとする先生方の他に、市長、日本企業の駐在員数名がいた。

エアコンの効いた教室。黒板には大きくWELCOMEの文字。机をくっつけてテーブルクロスをかけたテーブルには西洋風の料理が並び、アメリカのヒットチャートの音楽がBGM。

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