1週間なんてあっという間。ばたばたと塾の夏期講習をキャンセルして、健康診断やらなんやらをして、準備はぎりぎり。


当日、最寄り駅まで車で送ってくれると思っていた母が、めっちゃオシャレをしている。朝から雨戸閉まってるし。何よりオレたち三人の息子より可愛がっている愛犬がいない。

オレは三人兄弟の末っ子。

1番上の兄は社会人で一人暮らし。

2番目の兄はアメリカの大学に留学中。

父はノースアンド共和国。


「あれ? ロナウドは?」

「おばあちゃん家」

祖父母の家は同じ敷地内。30メートルくらい離れているだけ。


「ひょっとしてお母さん、成田まで見送りに来んの?」

やめてくれよ。恥ずいから。

「たまたま同じ便だったの」

「は?」

「お父さんとこ行くから。ノースアンド共和国」

「げっ。話しかけるなよ」

「大丈夫。私、ビジネスクラスだもん。エコノミーでしょ? でも、ご挨拶くらいはさせて。ふがいない愚息がお世話になるんだから」

ふがいないと愚息は余計だろ。



成田には、サッカー部の面々が、莉那ちゃんとハナ目当てで見送りに来てくれた。それから、莉那ちゃんのご両親、ハナの母親。

やー、莉那ちゃんのお母さんってかわいー。歳とっても、あんなにかわいーんだ。莉那ちゃんも、あんな感じになるんだろーなー。父親はこの後仕事なのかスーツ姿。

ハナの母親は、相変わらず品のいいセレブママっぽい。

岳ちゃんと下仁田は2人で現れた。ま、高2男子ならこれが普通だよな。


これから一緒に行くメンバーは、

山岳部の剣山岳、

科学部の下ネタ、じゃなくて下仁田ジョージ、

三崎莉那ちゃん、

佐藤ハナ。


見送りに来たサッカー部のヤツらからの羨望の眼差しを浴びるオレ。

「高橋、莉那ちゃんとシュガーと一緒なんて!」

シュガーとは佐藤ハナのこと。苗字が佐藤だから男子の間ではシュガーと呼ばれている。

「莉那ちゃんは嬉しいけど、ブスは今更」

「何言ってるんだよ」

「あのポニーテール」

「勝気そうな目なのに、笑うとたれてさー」

「高橋としゃべるときは、ちょっと可愛くなるんだよな」

「「「うんうん」」」

「んなわけねーじゃん。それより」


「なんだよ、高橋」

「山中湖の女子大生によろしく言っといて」

「そっちは、オレらがちゃんと楽しんどくから」

「「心配するなって」」

「オレがいない間のサッカー部も頼んだぞ」

「大丈夫だって」

「留学中に選手権の試合、始まるだろ?」

「高橋がいよーがいなかろーが、予選敗退だって」

「そこは、帰国するまで勝ち残ってるって言えよー」

「オレらしょーじきだからさー」

「「「「ははっはははっははははは」」」」



しっかし遠い。直行便は出ていないからパリ経由。

で、パリで母を見かけると「出国」の方へ行こうとしている。

「お母さん、そっちじゃないって」

親切に教えたつもりなのに。

「ああ、ここでお別れ。元気でね。

 私、パリで1週間遊んでからノースアンド共和国へ行くから。

 みなさん、お世話かけると思いますけど、よろしくお願いします。

 ハナちゃんも元気でね。じゃねー」

ニコニコ笑いながら軽く手をふりやがった。名残惜しさの欠片も見当たらない。


「高橋のお母さんって、美人だよな」

岳ちゃんが褒めてくれた。

「そっか?」

つーか、オレと同じ顔で嫌なんだけど。


「高橋のお母さんって、佐藤さんのこと知ってんの?」

下ネタ、おっと、下仁田が反応。

「幼稚園から一緒だから」

「へー。じゃさ、小さいころの佐藤さんってどんなだった?」

「ブタ」

「ちょっと! 高橋クン。何言ってくれちゃってるわけ?」

げっ。聞いてた。

ふと気づくと、下仁田が莉那ちゃんの荷物を、岳ちゃんがハナの荷物を少し持ってあげてる。気が回らなかったぜ。こーゆーのって、女子にとっちゃ、ポイント高いんだろうな。

「ありがと。ジョージ」

俯き加減の莉那ちゃんの頬がちょっとだけ赤く見えるのは気のせい?


パリで飛行機を乗り換え、更に夜間飛行。

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