営業中ー3話[へんじのへんじ]
・
…ちゃぽん…
湯船につかりながら真帆は先週の事を思い返していた。
あの不思議な喫茶店での出来事から1週間。
お手紙を書くことになったんだな、不思議な体験だったな…
そういえば、小学校の頃引っ越していった仲良しのお友達と文通してたな…
あの子、元気にしてるかな…今何やってるんだろう…
手紙、書いてみようかなぁ………
「…いけないっ!明日は仕事の面接だった!!」
ザパッ
ドタドタ………
………
……
「…こんにちは、今日面接の者なんですが…」
「お待ちしてました!どうぞこちらへ!」
………
……
…
「真帆さんね、明日から働ける?」
「はい、働けます!」
「じゃあ、あしたからよろしくね、詳しいことは明日先輩にきいてくれるかな?」
「わかりました!よろしくおねがいします!」
明日から、割烹料理屋さんで働くことになった!がんばろっと!
仕事も決まったし、今日はあの喫茶店行こうかな
返事、来てるんだろうか…
緊張しながら、先週と同じツタでいっぱいのこの喫茶店にやってきた。
「あれ、真帆さん、いらっしゃい」
「こんにちは、マスター、先週ぶりです、今日はお店にいらっしゃるんですね」
「そろそろ真帆さんが来る頃かなと思ってね、どうぞ座って」
「ありがとうございます、…それで、あの、手紙返事って…」
「来てるよ、ほら」
真帆は緊張しながら手紙を受け取った
「本当にくるんですね、緊張するなぁ…」
「ははは!面白いことを言うね、はい、コーヒー。今日はコーヒーのおともにクッキーをどうぞ」
今日はチョコレートの混ざったマーブルクッキーだ。
「ありがとうございます」
―顔の知らぬ真帆さんへ―
はじめまして、真帆さん。
私は剛といいます。お手紙をありがとう。
真帆さんから手紙をもらってすごくうれしかったです。
初めなので自己紹介をしますね。
私はA型です。血液型診断ではとても相性が悪いみたいだけど、そうじゃないことを祈っています。(笑)
趣味はそうだな…お菓子を作ることです。男だからってバカにされることが多いけど…
真帆さんも素敵な趣味をお持ちですね。
最近冷え込んできたから、私にマフラーを編んでほしいな…なーんてね。
返事、いただけたら嬉しいです。
―剛より―
「…真帆さん、顔が緩んでいますよ、恋しちゃいましたか?」
「そ、そんなんじゃありません!…なんだか嬉しくて。やっぱり手紙っていいですね」
「そう思っていただけたなら光栄です、文通屋をやっている甲斐がありますよ。」
「昨日の夜、ふと子供の頃のことを思い出したんです。あのころは簡単に友達ができてずっと友達だ、親友だって、なんの根拠もないのにそう思ってたなーって。でも、大人になった今、そううまくはいかないって分かってしまって、もう最初から関係を作るのはめんどうだって諦めてたんです。」
「友達、いいもんだよね。」
「はい、改めてそう感じました。面倒だって思ってたのはきっと自分から行動して失敗するのが怖くて逃げてたんじゃないかって。」
「きっとそうやって新しい関りを避けている人は多いんじゃないかな。」
「そうですね、でも、自分の文字で自分の気持ちを伝えて、逃げてたらだめだなって思いました。こんなに幸せな気持ちになれるのに、もったいないですよね。」
「ははははは!文通の良さを分かってもらえて本当にうれしいよ、さぁ、お相手に返事を書いたらどうだい?」
「ふふふ、そうですね、便せん、選んできます。」
真帆は文通相手の趣味に合わせてお菓子の柄の便せんを選んだ。
よろこんでくれるといいな…
―剛さんへ―
お返事ありがとうございました。正直文通ができるなんて半信半疑でした。
でも、剛さんからお返事もらえて本当にうれしいし、なんだか懐かしい気持ちになりました。
剛さんはお菓子を作るのが趣味なんですね、とても素敵です!
私が剛さんにお手紙を書いているこの喫茶店ではすごくおいしいお菓子をコーヒーのおともに出してくれるんです。
お菓子を作れるなんて本当に尊敬します!初心者の私でも作れるお菓子、作り方教えてもらいたいです!
私は今日、新しいお仕事の面接に行ってきたんですが、なんと明日から働かせてもらえることになったんです!緊張しますが、がんばります!
剛さんはどんなお仕事されてるんですか??
お返事、楽しみに待ってます。
-真帆より-
文通屋 ひかる @hikaru-0118
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