第70話 『交響曲第5番』 シベリウス
シベ先生の7曲の交響曲中、『2番』『1番』に次ぐ人気のある作品、であることは、先に書かせていただきました。
しかし、この曲の場合は、シベ先生ご自身が、なかなか満足することが出来ず、最終的な完成稿が出来上がるまでに、5年間、格闘をし続けたようです。
最初のバージョンは、1915年版で、これは4楽章形式となっています。
幸いにして、このバージョンの録音は、現在、聞くことが可能です。(BIS CD-863 など)
最終稿とは、別の音楽と見てよいくらい、聞いただけでも大きな違いがあります。
ただ素材自体は、大方、出そろっているようなのですが。
第1楽章も、第2楽章も、さらに第3楽章も、なにか、はっきり終結させずに次に続いてゆくような形になっています。
どうも、シベ先生は、もともと、曲全体を、一つに統一したいという意向が強くあったんじゃないかと思うのです。
第4楽章には、少し不協和な叫びが上がる部分も見られますが、こうしたちょっとモダニズム的なものは、最終稿ではなくなっています。
次いで、1916年版が作られました。
ここでは、3楽章に統合されていたのですが、まだシベ先生は満足できていませんでした。
ただ、このスコアは、現状、残っていないようです。
しかし、この時期、フィンランドは激動の時代で、1917年12月6日に、ロシアからの独立を宣言。その後内戦がおこり、シベ先生の住居『アイノラ』も赤軍の捜索対象となり、かなり危険な状況になったようです。
最終的には、保守派が勝利したということですが。
一旦、ヘルシンキに逃れるなど、苦しい事態が続いたようです。
そうして、苦心惨憺の末、ようやく1919年になって、決定稿が現れました。
現在普通に聴くのは、このバージョンです。
『第4交響曲』では、その斬新さが、なかなか大方には理解されず、(アーレ・メリカントさま(民謡風の歌曲やピアノ曲で人気が高い、オスカル・メリカント様のご子息。進歩的な作風で、親子でも、音楽は全く違います。)あたりは絶賛したようにも聞きますが・・・)が、いったいその後、シベ先生は革新的な方向に向くのか、それとも伝統的な方向で落ち着くのか・・・
シベ先生は、この時期、音楽的にも、大きな分かれ道にいたように思います。
結局、『第5交響曲』は、伝統の枠内に収まり、多くの人は、ある意味安心したようですが、その後、シベ先生は、進歩派からは『時代遅れ』とみなされるようになる、という状況にも、なってゆきます。
「私は、古い作曲家だ。」
というようなことも、後に語っていらっしゃったようですが、こいつは、言葉通りに受け取ってよいものかどうかは、やましんは、いささか、ひっかかっております。はい。
その後の歴史の流れを見ると、20世紀進歩派の無調の音楽は、結局あまり一般の人々からは受け入れられず、20世紀後半には、シベ先生の音楽あたりを模範とするような、調性のある音楽に回帰して行ったようにも思えます。
このあたりは、21世紀の半ばくらいになると、もっと全体像が見えてくるものかもしれませんが、そこらあたりは、専門家にお任せです。あと50年くらいしたら、また、この続きを、本をしっかり読んで、書きましょう。(やましんは、110歳、越えますがね。)
ときに、この曲、音楽的に完成度が高くて、充実しているのは、やましんは、やはり、シベ先生が苦心惨憺した、第1楽章だと思います。
でも、感動的に美しいのは、第2楽章で、終結前の色合いの美しさは、筆舌に尽くせません。(この言い方、あってるかな。)
しかしながら、最高にスリリングで面白いのは、何と言っても、第3楽章です。(なんだそりゃ? まあ、結局、全部良いと、言う事ですな。)
スコアを見ると、いったい自分が今、どこを弾いてるんだか、迷子になりそう。
でも、限りなく美しい旋律が、まるで異空間からふわっと浮き上がるように、現れるのです。
終楽章のラストは、かなり有名な部分で、オーケストラの奏者様にとっては、このうえなく、オッソロしい場所かと思います。
この、終結の6発の爆発で、もしも、一人だけ飛び出したりしたら、もうすべておしまいで、大事になりますからね。
でも、最大限に、開放(解放)された音でなければならず、堅く固まった音では、うまくありません。すっきりしません。
すべての空間が統一されて、開放される、でも、あまねく、緊張の瞬間なのです。
聞いてる方も、そうだと思います。
そうして、この、終わったあとの、素晴らしい快感が、たまらないのです。
なので、ここは、ライブで聴くのが、きっと、ベストなのでしょう。
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