第65話 『ハンガリア田園幻想曲』 F.ドップラー


 日本人が、なぜかとりわけ愛好し、そこから逆に欧米に広まった感じがするちょっと特別なフルート曲。


 また、第一部分が終わったところで、拍手が来てしまって、場合によっては、お客さんがすっかり終わった気になっていて、とても先に進める雰囲気じゃなくなってしまう可能性が高い危ない曲。


 お客さんが、学生さんや、フルート愛好家ばかりのときは、まず大丈夫ですけど、やましんは、ある合唱祭の現場で、そうなってしまった場合に立ち会っています。


 あまりに盛大な拍手が来て、お客さまたちが『いやあ、たいへん、結構なものですなあ‼️』


 とかで、もう、会話もどかっと始まり、完璧すっかり、終わった雰囲気になってしまったので、フルーティストさまは、にこっとして、そこで、止めにしてしまいました。


 ここからが、名人芸の聞き所だったわけであります。もったいない❗


 そこで、最近の演奏会では、この曲の持つ危険性を回避するため、第一部の終結で、 フルートのソロがハーモニクス(ま、あえて音を霞ませるテクニックなのですが)の末、びしっと、第一部の最後の音を決めたら、間髪入れずに、ピアノさんは、第二部を弾き始めるのです。ほんとは、ちょっと間を、楽しみたいところでは、あるのですけども。


 余談ですが、チャイコフスキーさまの、『交響曲第5番』が、これがまた、非常に危ない曲なのですが、それはまた。


 さて、で、それはおいといて、・・・・この曲、 まずは、むかし、SP録音時代に、マルセル・モイーズさまが第一部分だけ録音して、発売したところ、日本でバカ受けとなり、レコード会社側が急いで全曲の録音を依頼し、再び、これがまた日本でものすごく売れた・・・。と、いうのであります。


 以来、欧米のフルーティストが来日すると、この曲を演奏するように求められるけれど、欧米ではあまり聞かれない曲で、とにかく日本に行くならこの曲を持って行かなくちゃ、という事になってきたらしい・・・


 日本のフルーティストの大御所だった、吉田雅夫さまは、「この曲は江差追分に似ているところがあり、そこが日本人に好かれるんじゃないか・・・」というお話しを、テレビその他でおっしゃていた記憶が、やましんにもある・・・。


 現在は、何事も情報がたくさんあって、好みも多様化しており、一時期ほど、アマチュアがこの曲にこだわる感じではなくなった気もしますが、それでも、いまだに、日本人には一番有名なフルート曲かもしれません。


 しかし、かつてフルートを始めるおじさまの多くが、この曲をやりたい! と思ったに違いないのですが、まず出会うのは、恐ろしい楽譜面なのです。


 つまり、この作品、なかなか難しい厳格なリズム感に乗っかっておりまして、多くの方は感覚的に捉えているかもしれませんが(聞くにはそれでOKなんですが)これを楽譜通りにびっしり演奏するのには、ちょっと、よく考えないといけません。一小節内に、山ほど音符があるのです。


 頭のよろしくない、しかも計算が苦手のやましんは、この曲は避けてまいりまして、聞く以外は、手は出さない積りでおります。まあ、なんとなくとっても怖いのです。(多少練習はしましたけど。)


 しかし、音楽的には、うつうつぎみの美しい幻想的な音楽から始まり、更に美しい長調の中間部を経て、やがて、『ダンス』となります。


 むかしの、その、モイーズ先生のレッスンの様子を録音で聴くと、「うわー、なるほどなあ~~」と感心しきりになります。


 男性の踊り手がまず踊り、やがて女性の踊り手が入ってくるというのです・・・

 

 最後のあたりは、急速で、指使いもちょっと難しくなり、華やかに,

かっこよく、うきうきで、終わるのです


が、きちんと吹けたらよいけれど・・・やましんは、まずは聞いていた方が安心。



 さて、ビゼー先生の、『アルルの女』の組曲に無理やり入れられてしまった『メヌエット』も、これもまたおっそろしく難しい曲で、楽譜通りに演奏するのは、なかなか大変。


 この曲にも、やましんは手を出しません。(これも練習はしましたけども。)


 まあ、アマチュアはそれで済むので助かります。


 プロには『出来ない』『知らない』『無理』は禁句。


 これは、どこの世界も同じようです。


 やましんには、でも、無理。


 おお昔、まだ就職して間がないころ、本部のある大物大先輩から、「調子はどう?」と聞かれまして、「いやあ、ぼくは頭悪いですからねぇ~。」と申し上げたところ、「じゃあ、やめてもらわなくっちゃね!」と一言。


 これが職場というものです。(ジョークですから。)

 

 ただ、そのかたも、とうにお亡くなりになりました。ご冥福を祈ります。


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