第29話 『ピアノ五重奏曲 変ホ長調』 フンメル

 フンメル大先生(1778~1837)は、御存命中においては、べー先生と並び称される大音楽家でした。


 しかし、お亡くなりになると同時に、世間からはさっぱりと、忘れられてゆきました。


 まあ、録音も映像もまだなくて、目の前から消えてしまうと、そうした現象は起こるものだとは思います。


 なにせ、大バッハ先生でさえ、一般からはあまり見えなくなっていたのですから。


 そんなフンメル先生ですが、20世紀になって、まず復活して有名になったのは『トランペット協奏曲』でしょう。


 しかし、この五重奏曲も、いやあ、これがまた、良い音楽なのですなあ。


 第1楽章の冒頭部分は、あたかもべー先生のような、短いモティーフで始まり、それを中心に発展してゆく形です。


 たしかに、べー先生と真っ向から比べてしまったら、いくらか掘り進む推進力の差はあるのかもしれませんが、それは個性なのだと考えてもよいのでしょう。


 ちょっと、やんわりと、ロマンティックなのです。


 また、深刻になり過ぎない分、聞きやすいとも言えます。


 しかも、なんとも魅力的で、美しい旋律を引き出してゆきます。


 このあたりは、子供時代に住み込みで教えを受けた、あの、モー先生のなごりのようなところも感じます。


 第2楽章は、これがまた傑作。やや不安でありながら、ちょっとシューベ先生のような面持を持つ、実に良い音楽。


 第3楽章は、べー先生ほどの異様な深淵には至っていないのかもしれませんし、バロック時代の協奏曲のなごりのような、ちょっと即興的な雰囲気もあります。全体からしたら、やや小さめだけれど、逆に、やたらに大きくなりすぎたりもしない、まあ、良いバランスなのでしょう。これだから、終楽章が引き立つのかもしれないです。まあ、もう、ちょと、長くても、良かったかな。


 そうして、終楽章が実に魅力的です。


 これは、まあ、なんというのか、『プチロマン』といいますか、新しい時代の音楽を、指し示しているような感じもあり、気持ちよ~い、軽く流れるような、しかし、なかなか、中身も聞きごたえもある、実に魅力満載の良い音楽です。


 もうすこし、終結部分あたりは、拡げてくれても良かったのにな、とも、思うものの、そこがフンメル先生の良さなのでしょう。


 なんとなく、うきうきしてしまう、やましん、おすすめの傑作。






 








  



 





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