第25話 『序曲《自然の王国で》』 ドヴォルザーク
もう、20年以上前でしょうか。当時まだ健在だった両親を自動車に乗せて、阿蘇山から湯布院まで走っていたときに、たまたまFM放送で流されたのがこの曲でした。
ちょうど、ちょっとした森の樹々の中を通過していたのです。
偶然とはいえ、これは天啓のようなものでした。
生い茂る高い樹木、
鳥たちの楽しい歌声、
これは、ドヴォ先生がアメリカに渡る前に書かれた《序曲3部作》の最初の曲であります。
まだ、《新世界》の雑踏を見る前で、雑念がなかったためかどうかはわかりませんが、とても純粋で美しい音楽です。
音楽は音楽だから、上野のホールで聞いても、湯布院の温泉で聞いても、中身は同じじゃない!
確かにそうは思いますが、後から思い出しても、それはまあ、幸せな場面だったのです。
自動車の中だから、また山の中だから、きっと音が途切れたりもしていたでしょうし、十分には、聞こえてはいなかったでしょう。
それでもそれは、この音楽に関する最高の思い出であり、また強い印象を、ぼくに残したのです。
なにしろ、そのあとの温泉や食事の事よりも、実際によく覚えている訳ですから。
ドヴォ先生の作品中では、一般的にはちょっと馴染みうすかもしれない曲ですが、それでもこの3部作の第2曲は、わりと有名曲です。
『序曲 《謝肉祭》』が、その曲で、CDの、あいた隙間に入れられることもあり、なかなか派手な曲調でもあり、けっこう人気もあるようです。
しかし、聞いて見ると、第1曲と同じ、《自然》のモティーフがしっかりと出て来ます。
ドヴォ先生は、意図的にやっているわけですが、別々に聞くと分からないですよね。
なお、第3曲は『序曲 《オセロ》』であります。
できれば、3つ、いっしょに聞きたい作品。
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