第5話  『ヴァイオリンソナタ第5番「春」』 ベートーヴェン

 良い音楽ですねえ。

 「春」といわれれば、「春」ですし。ヴァイオリンソナタ第5番『山の温泉』と言っても良いような、(べー先生にぶん殴られそうですが・・)ほんわかとした味わいで(日本でしか通用しないかな)ほかほか、ふかふか、るんるん、じゅわじゅわっー!で、ほんとうによろしいですねぇ。


 出だしから、この世の雑踏とはまったくの異世界であるところが、現実と闘い続けたべー先生の作品としては、異例の、「のどか音楽」です。


 「田園交響曲」のように、気分を緩ませておいて、嵐が不意打ちする、ということもなく、また最後の最後に、この世の深淵を覗き込ませるという恐ろしいコース設定でもなく、(『田園交響曲』は、最後、恐ろしいですよね!)その、終結部まで、このうきうき気分が崩れません。

 体中がほかほかしてきて、幸せいっぱいになります。


 飛び跳ねるような第3楽章から、あまりに美しくて楽しい終楽章に移り変わるところなんか、もう3メートルくらいは飛び上がりそうな気分になります。


 あの、人生の苦悩や苦痛のすべてを思い起こさせるべー先生の散歩スタイルを描いた絵画からは、想像もできない音楽であります。


 ちなみに、宮沢賢治先生の有名な『散歩写真』は、べー先生のその有名な絵画をお手本にして、賢治先生が自ら脚本して撮影したのだそうです。

 そうとうべー先生に入れ込んでいらっしゃったようですが、他人の苦労を引き受けて、可能な限り助けをしようとする崇高な理想を、ただの夢物語ではなくて、現実に実行したところが、きっと賢治先生の偉大なところなのでしょう。


 一方、そのべー先生には、伝説的な奇行話しも多く残っていますが、(例えば、ある日、家政婦さんの顔に、なま卵をぼんぼんと、投げつけた・・・とか。ただ、これにも『実はね・・・家政婦さんは、・・・・・。それに気がついたべー先生が、起こした、行動だったのではないか?』という裏解釈話しも、あるのですが。(つまり、家政婦さんは、反体制派の危険人物であるべー先生を監視していた、政府のスパイだったのではないか・・・とかの・・・) まあ、逆に、もしかしたら、これらの逸話自体が、周囲によって創り上げられた、べー先生の行動の一面だけしか捉えていない寓話に過ぎない、のかもしれませんけれどもね。現在、もしそんなことを、実際に有名人の方がなさったら・・・いや、その前に、政府がそんなことしたらたいへんだ・・・・・怖いので、これは考えるのは止めましょう。)


 しかし、べー先生に、万が一にも、直に会ってみたら、ぼくなど、きっと、すぐに怖くなって、逃げ出すかもしれません。


 実際、社会的に名のある方、とかいう人にお目にかかると、(知事さんとか、市長さんとか、社長さんとか、所長さんとか、なんとか長さん、師匠、巨匠! マエストロ、大先生、教授先生さま、ディ-バさま、などなど・・ただ、ぼくは、大臣クラスというような方には、まだ会ったことがないので、そこは、まあ、お許しください。)そうした、言いようがない恐怖感を抱くことも多いものです。


 なんか、ちょっと言い間違えたら、襲いかかられそうな、そんな、おそるべき気迫を感じたり・・・・・。


 

 ところが、この曲はそうした恐怖感を与えません。

「やあ、べー先生、お元気?!」

「おう、やましんさん、今日はいい天気だねぇ!」

 という感じなのです。





 

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