第4話 『ヴァイオリン協奏曲ホ短調』メンデルスゾーン

 なんで、まあいまどき「メンコン」なんですか?

 しかも、「うきうき」なんですか?


 とか、言われそうな気もいたします。


 でも、ちょっと考えてみますに、この「超名曲」に対して、最近世の中が何となく冷たいのではないのか。

 と、思ってしまうのです。


 確かに、クラシック音楽自体、聴く人と聞かない人の間が、地球と月のように、だんだん離れて行っており、やがてはクラシック音楽という分野は、ある種の秘密結社のようになってしまうのではないか。(そういう小説もちょっと計画中だったりしますが)というような、浅はかな懸念も抱く今日この頃です。

 

 でも、最近うつうつしながらも、さらに老化が進むにつれても、この曲の偉大さがひしひしと感じられるのです。

 メンデ先生は、音楽家としては珍しいくらいに、経済的には恵まれたご家庭のご子息でいらっしゃいました。

 ご自宅には、お抱えのオーケストラもあったらしきようなお話もあり、豪勢なお宅だったようです。

 なので、僕が子供の頃読んだレコードの解説文あたりには、よいご家庭のご出身であるが、それだけに音楽的な苦悩とか、激しさには欠ける、などの解説文が載っていたりしたような気も致します。


「ふうん。そうかなあ・・・そうなのかしら・・・」

 と、疑り深いやましんは、怪しい目つきで、あまりそこは信用していなかったのです。


 だって、この曲を聴いても、中学生の視線から見ても、とても『そうした深みに欠ける』音楽、なんて思えなかったからですね。

 まあ、人間はその時の自分のうつわ以上には考えられないわけですから、ぼくなどには死ぬまで『底の浅い』名曲なんて、まったく考えにくいわけなのですけれど。


 実際のところは、メンデルスゾーン家は、なかなか社会的には苦労の多いご家庭でもあったようで、それは後世になっても続き、ナチスはメンデ先生の存在の抹消をも図っていたやに聞きます。事実とすれば、恐ろしい事ですな。


 けれど、個人データが、もしすべて一括管理されるようになれば、個人の存在を消してしまうのなどは、簡単になるかもしれませんね。

 一発で消去!ですもの。(間違いが無いように仕組んではゆくのでしょうけれど。)

 ただしそれは、究極の個人情報保護かもしれませんけれど。


 ところで、その後、べー先生やらブラームス先生やら、ドヴォ先生やら、チャイコ先生やらシベ先生やら、バルトーク先生やら、ショスタコーヴィチ先生やらのヴァイオリンコンチェルトを聴いているうちに、僕の中でも、いくらかメンデ先生の立場というものが、ちょっとは、弱くなっていた気はするのです。


 ところが、もう人生の終わりの方がぐっと近くなって、ようやく気が付いたのですが、やはり、この協奏曲は、こうした名作の中でも、実に格別のものであるぞ。という事なのです。

 それは、ちょっと言葉には上手には出来ないのですが、だってもう、内心、泣けて、泣けて、仕方がないものですからね。(単にトシ取って、涙もろくなっただけだろうって?・・・う!)

 それは、やはりこの作品が、いかによく出来ているか・・・そのすっきりと均衡のとれたスタイル、無理のないしかも新鮮な構造(第一楽章のカデンツァの位置が再現部の前とか)、ヴァイオリンのテクニックの聴きごたえ、オケとの絶妙なバランス感覚、その美しい魅力あふれる旋律、人間の感情に与える豊かな影響力。すべてのバランス、が抜群に優れているのです。

 ところが、これは最近、むしろ人気がないキャラクターなのかもしれません。


 でも、でも、この曲は、その「癒し効果」から見ても、やはり破格の存在です。

 第1楽章の有名な第1主題はもちろんとして、むしろ、その第2主題(特に再現部)の美しさ、さらに第2楽章のすばらしさは、特筆ものです。最終楽章の終結部はヴァイオリン協奏曲史上、屈指の出来栄えです。(もっとも、この曲には別バージョンが残っておりまして、そちらは終結部も含めて、随分あちこち違っておりますが・・・)


 またまた、ところで、なんだかんだと言っても、メンデ先生は結局のところは「カロウシ」であったのではないか。(直接的には脳出血)

 そう思うと、なおさらこの作品、超ご多忙の中で書かれたなんて、ちょっと信じられないくらいの、ほほ笑みと、ゆったりとした、人間的な余裕があります。

 きりきり、かりかり、うつうつ、どぎゃどぎゃ、ざわざわなんか、してないでしょう?

 すごい事だと思うのです。

 聞き手に、幸せをもたらす音楽なのです。

 なので「うつうつ」に入れるのは、さすがに、はばかられてしまいました。


 でも実はメンデルスゾ-ン先生、時に感情的に大爆発したり、激高したりすることもあったらしく聞きます。

 ご苦労もまた、非常に多かったに違いありません。もっと長生きしていただきたかった方のおひとりですし、この曲や『結婚行進曲』以外の作品にも、もっともっと、人気が出てほしいと思うんであります。




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「うつうつ」に並行して「うきうき」を開始いたしました。

こちらもお読みくださいました方に、厚くお礼申し上げます。

どちらも、まだしばらく続けるつもりでおります。

そうぞ、散歩のついでに、時にお寄りくださいますよう、お願い申しあげます。

自分勝手なことばかり書いていて、申し訳なく思っております。

                       ~~~~~やましん




************ うき 🎇 🎇 うき ************



 

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