福の神はいつも幸を盗まれる

 仁がいつも早川の将棋に付き合うのは理由がある。勝った場合、当日の下校と翌日の登校の際に早川が車を出してくれるからだ。おかげで早川が出張でどこかへ行く日を除いて、仁と私は毎日車通勤なのである。ちなみに仁が負けた時の罰ゲームは早川に珈琲を奢ることなのだが、多分仁は忘れてるだろう。


「なんで仁ってボードゲームに関してだけ強いの?」


「俺が小さい時北海道に住んでたの知ってるだろ?冬は外寒いからってじいちゃんとよくボードゲームしてたんだよ。ってかほとんどそれしかしてないし」


 仁は懐かしそうに外の雪を眺めていた。


「お前北海道に住んでたのかー」


 早川と出会ったのは高校に入ってからなので小学4年生で仁がこっちに引っ越してきたことはもちろん早川は知らない。私達の過去の出来事も……。


「早川ってずっとこっちに住んでんの?」


「まぁ、俺は昔隣の県住んでて問題起こした時左遷されてこっちに来たくらいかな。問題起こした後に自殺して福の神になった」


 私と仁もそうだが大抵の神は一度人間として死んだあとに創造神によって神として創造される。私の知る限り例外は創造神だけだ。


「早川……お前ロリコンなの?」


「普通暴力系を疑うんじゃないの?」


「あら、違うのね。てっきり私と仁に接触してきたのは私狙いなんだと思ってたんだけど」


「お前らを神だと思ったから話しかけたんだよ……」


 神様は人の頭上にメーターのようなものが見える。福の神なら『その人の幸せ度合い』死神なら『その人の寿命』という具合に。仁はそのメーターのことをRPGの敵キャラのHPに例えるが、私はその例えが嫌いなのでいつも『ゲージ』と言っている。早川からは私と仁のゲージは見えなかったのだろう。人の形をしていてゲージが見えないのはマネキンかロボットか神くらいだ。


「あぁ……あなたの年齢から見たらこの世の9割の女性はロリだものね。容姿が普通の私に声かける理由はないわね」


「俺最近三十路なったばっかだけど……?」


「あれ?早川ってもっと人生経験豊富そうだけど」


「そんな遠まわしに言わなくていいんだぞ…。まぁ他人がしないような経験をしてきたって意味では間違えてないけど」


「どんな失恋をしたのかしら」


「俺は割とモテる方なんだよ。どちらかというとアプローチは俺からより女性の方からの方が多いくらいにはな。そんな俺は福の神になった頃から俺を好きになってくれる人は多くなったんだが大抵あと一歩のところで他の男に取られるんだ……。なんでかわかるか?」


「『早川と付き合っても女性は幸せになれないから』もしくは『相手の男性にも福を与えているから』まぁ前者でしょうね」


「ちげぇよ!その『相手の男性』ってのは俺と近しい人が多いから多分後者だよ!」


 早川は私にと言うより自分に言い聞かせるように叫んでいた。


「福の神ってのは周囲にいる人を幸せにするだけで自分は幸せになれないんだよ」


 早川は車の前の横断歩道を相合い傘で歩く男女を懐かしそうに見つめていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る