生死神(いきしにがみ)

海辺の鳥

福の神は不幸を吸い続ける

 逢坂仁は彼の現代文の担当教師であり同僚でもある早川徹の将棋に付き合いながら愚痴を聞かされていた。


「いまさっき上から『相変わらず早川先生の担当したクラスの進学率は他の進学校と比較しても頭角を現してますね!今年の3年生も頼みますよ!』って言われたんだけどまた3年の進学クラス担当なのか?」


 早川は苦手な穴熊を珍しく指していた。長期戦が望みなんだろう。


「まぁ一年でクラスの1/3が偏差値を20くらいあげちゃうんだから仕方ないんじゃね?」


 仁は自玉が薄いまま急戦を仕掛けていた。私はさっきから進んでいない文庫本を鞄の中に放り投げて早川の愚痴の処理を手伝うことにした。


「福の神が担任するクラスの生徒が志望校に合格しないわけないものね」


「この学校は新人育てる気0なのかよ……」


「早川が新人と親しくなれば新人育つんじゃねーの?」


「いや、それなんたけど『福が訪れる→成績アップ』は結構見るけど『福が訪れる→仕事の効率アップ』ってのは意外に稀なんだよな」


「社会人は結婚相手を見つけたり給料が無条件に上がる方が幸せなんじゃね?仕事の効率上がったら出世して仕事増えそうだし」


「だから俺の給料上がらないのかな?体感的に仕事が入社したときの3倍近くになってるのに」


「流石奉仕の神ね」


「俺福の神なんだけど」


その時早川の王将を守るものは何もなかった。

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