第5話 先輩とカブトムシ(4)


「あーおもしろかった!廣瀬くん、ほんとに良いリアクションするんだもん」


 そう言う先輩はまだクスクスと笑っている。

 まだ笑いの余韻が残っているのだろう。


「もう……勘弁してくださいよ…」


 ズボンについた土を手で払いながら僕は立ち上がる。


「というか先輩なんでゴキブリ触れるんですか。一応、華のJKですよね」


「一応って何よ一応って。あと、別にJKだってゴキブリくらい触れたっていいじゃない」


 実にその通りであり、ド正論であるのだが何か違う気がする。僕の中の"JK"のイメージと今の先輩の姿が明らかに乖離しているのだ。

 そう反論しようとも思ったのだが、先輩の機嫌を損ねることになりそうなのでやめておいた。


 そう。僕は大人なのだ。引き際を間違えてはならない。


 先輩に対し若干の優越感を感じ、気持ちがいい。



「で、これからどうするんですか。もう結構陽が落ちてきちゃいましたよ」


「うーん、確かにね……でもカブトムシは見たいし……」


「あっそうだ!!!」


 何か閃いたようである。アニメや漫画でよくある、例のピコーンというサウンドが聴こえる感じがするし、ピカッと光る電球も見える気がする。


「こうやって小さな木の枝をゴキブリちゃんの頭につけてあげれば……」


「じゃーん!!!なんとゴキブリがカブトムシに――」


「却下です」


 ううっ……と悲しげな表情を見せる先輩である。コロコロと表情が変わる先輩は見ていて本当に面白い。嬉しい時には、パァッっとまるで向日葵のようにな笑顔を咲かせるし、今のように悲しい時には、夕暮れ時の朝顔のようにシュンと顔を悲しげに曇らせる。


 それにしてもなんと苦し紛れなアイデアなのだろうか。安直すぎてむしろ笑えてくるかもしれない。


「今日はもう駄目そうですし、また後日、ということにしませんか?」


(カブトムシがいないこの公園も駄目だし、ゴキブリに角を生やしカブトムシー!とか言い張りそうになる先輩はもっと駄目だからである)


「んー……じゃあ最後にあっちのほう見て帰ろっか」


 先輩がそう指を指したのは、僕たちが入ってきた公園の入口の対角線上に位置する入口のほうであった。行きに入った入口よりも、じめっとしているというかなんというか、薄暗い印象である。行きに入った入口を正門と呼ぶならば、、あちらは裏口という感じである。実際に"裏口"から出入りしている人はあまり見たことがないし、またこの公園の数少ない遊具は、全て"正門"付近に集められており、"裏口"のほうには何も設置されていないという不遇っぷりである。


 

 そんな蒼然たる"裏口"へと僕と先輩は向かうのであった。





 



 



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